「東日本支部便り」カテゴリーアーカイブ

映画『天国から来たチャンピオン』に見る音楽と魂の結びつき

原田知子(武蔵野音楽大学)

映画『天国から来たチャンピオン』(Heaven Can Wait)は1978年に制作されたアメリカ映画です。監督のウォーレン・ベイティ(当時の表記はビーティ)が主役を務め、明るいアメリカン・フットボール選手を溌剌と演じています。大学1年の時、英語劇の仲間からこのノベライズ本を借り、生まれて初めて英語の本を夢中で読む経験をしました。その意味でも思い出深い作品ですが、現在、音楽大学で英語を教え、端唄を演奏する者として、映画に描かれた音楽と魂の深い結びつきに改めて心を惹かれています。

主人公のジョーは交通事故に遭い、天国への中継地で目を覚まします。ところが実は、新人天使の手違いで予定より早く命を奪われ、本来の死は50年後だったことが判明します。ジョーは天使長とともに地上に戻りますが、体はすでに火葬されていました。そこで、ジョーは代わりの体を探す羽目になります。

ジョーと天使長は大富豪レオの屋敷を訪れ、殺害されたばかりのレオを発見しました。ちょうどそこに、環境保護運動家のベティがレオの会社による公害に抗議しに来ます。ジョーはベティを助けるため、レオの体を一時的に借りることにします。会社の部下や使用人たちは、レオの言動の変化や、他人には見えない天使長と話している様子に戸惑いますが、レオ(の中のジョー)は環境を守る方針を次々と決定していきます。レオを悪徳経営者とばかり思っていたベティは驚き、二人は互いに惹かれていくのでした。

ジョーはレオの体を鍛えてフットボールの試合に出るため、昔馴染みのフットボール・トレーナーのマックスを屋敷に呼びます。自分がジョーであると主張するレオの話をまったく信じないマックスでしたが、レオのサックスを聞いた瞬間、彼の魂がジョーであることを悟ります。

ジョーは試合に出場できることになりますが、なんとここでレオの体を使える期間が尽きたことを天使長から告げられます。ジョーはベティに、いつか、きみを知っているように見える人が現れるかもしれないと言い残します。レオの体を失ったジョーは試合に出られるのか、再び別の体に入ったジョーにベティは気づくのか。ぜひ映画でご覧ください。

この映画では、サックスの音色が、単なる楽器の響きを超え、まさにジョーの魂そのものとして描かれています。姿形が変わっても、その音色こそがジョーの本質を伝え、昔馴染みのマックスに彼の存在を確信させます。また、後のほうでは、ある人物の体からジョーの魂が去ったことにマックスが気づくシーンがあり、それもサックスへの無関心が決め手になっていました。

生前のジョーはソプラノ・サックスを吹いていましたが、注目すべきは、死後のジョーが魂の姿になってもなおサックスを手にしている描写です。これは、音楽がいかに彼の魂と不可分であり、彼自身のアイデンティティの中核を成しているかを象徴しています。音楽がその人の魂そのものであるという描写は、単なるプロットの一部にとどまらず、音楽に携わる人々の心に響きます。劇中で流れる美しいサックスのメロディーと相まって、深く心に残ることでしょう。

映画『ワンダー 君は太陽』(原題Wonder)に見ることばの力

渡邊 信(麗澤大学外国語学部)

英語学を専門としており、ことばについて考えるのが好きです。洋画や海外ドラマも子どものころからずっと好きでしたが、沈んだ時に励ましてくれることばや、困った時に導いてくれることばに、何度出会ったかわかりません。気に入ったセリフの意味を静かに考えていると時間を忘れてしまいます。

数年前、ゼミの学生が『ワンダー 君は太陽』(2017年、監督: スティーヴン・チョボスキー、原作: R・J・パラシオ)という作品を紹介してくれました。素敵なことばがたくさん使われている作品です。今回はこの作品から印象的な言葉をいくつか紹介させていただきます。*2025年5月時点ではNetflixで視聴できます。英語音声はありますが、残念ながらサブタイトルは日本語のみです。

簡単にストーリーを紹介します(詳細はこちら)。主人公のオギー(ジェイコブ・トレンブレイ)は10歳、ミドルスクールへの入学を控えています。顔に遺伝性の特徴があり、これまで何度も手術を受けてきました。家族は、母イザベル(ジュリア・ロバーツ)、父ネイト(オーウェン・ウィルソン)、姉ヴィア(イザベラ・ヴィドヴィッチ)そしてワンちゃんのデイジーです。ヴィアは入退院を繰り返す弟オギーの世話で忙しい両親に迷惑をかけないように生活している一方、内面では孤独を抱えています。母からホームスクーリングを受けてきたオギーが、「普通」の学校(いわゆるプレップスクール)に通うことになり、家族や友達、理解のある先生たちに支えられながら、いじめなど多くの困難を乗り越え成長していく1学年間が描かれています。

物語には、トゥシュマン校長(マンディ・パティンキン)、担任のブラウン先生(ダヴィード・ディグス)、オギーの友達のジャック(ノア・ジュープ)とサマー(ミリー・デイヴィス)、姉の親友ミランダ(ダニエル・ローズ・ラッセル)、そしていじめっ子のジュリアン(ブライス・ガイザー)や、同級生のシャーロット(エル・マッキノン)など、さまざまなキャラクターが登場します。それぞれの視点や役割が物語に深みを与えています。

印象的な言葉①: 正しいことより、親切を選べ

When given the choice between being right or being kind, choose kind.

(正しいことより、親切を選べ*)

*この訳文は原作小説の日本語訳(翻訳:中井はるの)からおかりしました。ほかのセリフの日本語訳はネットフリックスのサブタイトルを筆者が改変しました。

入学初日、生徒たちを教室に迎えるブラウン先生が板書した「9月の格言(September Precept)」です。ブラウン先生は毎月違う格言を子どもたちに考えさせます。そして、”Who do I aspire to be?”(人としてどうあるべきか?)と問い続けることの大切さを説きます。

ブラウン先生は子どもたちに「9月の格言を読みたい人?」と尋ねます。多くの子どもたちが元気よく“Me, me”と手を挙げますが、サマーだけは躊躇しています。気づいた先生は彼女に優しく語りかけ、格言を読むよう促します。サマーはゆっくりと読み始め、“… choose kind”と締めくくると、満足げににっこりと微笑みます。

勇気を持って誰かを正さなければならない場面ももちろんあると思います。差別的な発言やいじめ、ハラスメントなどに直面した時などです。でも、私自身を振り返ると、会議で自分の意見に固執してしまったことなどが思いだされます。個人的には、そうした過ちを反省し、将来の戒めとしてこのことばを心に留めておきたいと思います。

この「9月の格言」は、心理学者ウェイン・W・ダイアー博士 (Wayne Dyer)の言葉に由来するようです。完全に一致する表現は見つけられませんでしたが、ダイアー博士のホームページには「あなたを傷つけた人を許す」ためのステップの一つとして、“Be kind instead of right”(正しさより親切を選ぶ)の重要性が論じられています。

印象的な言葉②: 勇気について

Courage is what it takes to stand up and speak. Courage is also what it takes to sit down and listen.

(立ち上がって話すには勇気がいる。座って聞くにも勇気がいる)。

ホームルームの入り口に貼られたポスターに書かれている格言です。この言葉は、自分の意見を表明することの大切さだけでなく、他人の発言に注意深く耳を傾けることの重要性も伝えています。一般的には、ウィンストン・チャーチル元英国首相の言葉とされていますが、諸説あるようです。

私にはこの格言は、オギーの姉ヴィアを象徴しているようにも思えます。ヴィアは、弟オギーに両親の注意が集中していることを理解し、自分を抑えることで両親の負担にならないよう努力しています。その結果、知らず知らずのうちに自己主張を控えるようになりましたが、他人の話を注意深く聞くことに長けています。この格言は、ヴィアの内面の強さや、彼女が持つ「聞く勇気」を示す伏線とも読めるのではないでしょうか。

ヴィアの「聞き上手」は以下のジャステイン(演劇部での活動を通じて知り合ったヴィアのボーイフレンド)とのやりとりに明確に表れています:

Justine: Um, I can’t figure you out. Most theatre people won’t stop talking about themselves. But you don’t talk.

Via: I… I listen.

Justine: Me, too.

Via: I know.

Justine: Oh. So you do pay attention. Okay, that’s a start. Uh…I’m a good listener so tell me something. Who are you gonna audition for?

このシーンでは、Viaの控えめな性格と、他人の話をよく聞くという彼女の特性が際立っています。そして、その「聞く」姿勢こそが、彼女の内面的な強さや勇気を象徴しているように感じられます。この場面を通じて、他者を受け入れ、耳を傾けることが、いかに重要で尊いかが改めて伝わってきます。

印象的な言葉③:顔の特徴について

We all have marks on our face. This is the map that shows where we’ve been and it’s never, ever ugly.

母親イザベルが他人と違う顔の特徴に悩む息子オギーに語りかける場面です。人の顔の特徴はその人が歩んできた道程の証であり、決して醜いものではないと伝えます。映画全体のテーマである「外見の違いを受け入れ、内面に焦点を当てる」というメッセージを象徴するこの言葉は、オギーに安心感と自信を与えると同時に、作品を見る私たちにも外見にとらわれずおたがいの内面に目を向けることの大切さを訴えかけています。

印象的な言葉④:見方を変える

 Auggie can’t change how he looks. Maybe we should change how we see.

(オーギーは自分の見た目を変えることはできません。だから、私たちが見方を変えるべきなんです。)

この言葉は、トゥシュマン校長がオギーへのいじめ(ひどい似顔絵などの嫌がらせ)を続けたジュリアンとその両親に告げたものです。ジュリアン自身は反省の言葉を口にするのですが、母親は息子を理不尽に擁護し、結果としてジュリアンは転校することになってしまいます。

この後にジュリアンの登場シーンはありませんが、原作者R.J.パラシオは2022年に『ワンダー』の続編となる小説『ホワイトバード』を発表し、このいじめっ子ジュリアンを主要人物として描いています。2023年にはマーク・フォースター監督によって映画化もされています。この続編では、ジュリアンが祖母サラ・ブルームから第二次世界大戦中の体験を聞くことで、共感や優しさ、そして勇気について学ぶ姿が描かれます。ユダヤ人であるサラは、ナチス占領下のフランスで、家族や自分が迫害された経験を語ります。彼女の話では、命を懸けてサラをかくまい、助けた人々の勇気ある行動が強調されており、それはジュリアンに、優しさや人間性が持つ力強さを深く伝えるものとなっています。この物語は、ジュリアンが歴史の悲劇を理解するだけでなく、彼自身の価値観を揺さぶり、いじめや他者への態度について考え直すきっかけを与える重要な教訓となっていきます。

印象的な言葉⑤:行いが記念碑

MR. BROWNE: Your deeds are your monuments. Archaeologists found these words inscribed on the walls of an ancient Egyptian tomb. Can anybody tell me what they mean? Summer?

Summer: Oh, uh…I think it means that the things we do are the things that matter most.

ブラウン先生がYour deeds are your monuments(あなたの行いがあなたの記念碑です)という格言を紹介し、古代エジプトの墓に刻まれていたこの言葉の意味を子どもたちに問います。指名されたサマーは少し戸惑いながらも、「私たちの行いが最も大切だという意味だと思います」と答えます。このセリフは、人の価値は見た目や地位ではなく、日々の行動に表れるという映画のテーマをやさしく伝えていると思います。

印象的な言葉⑥: 本当の偉大さとは

The final award this morning is the Henry Ward Beecher medal to honor students who have been notable or exemplary. Usually, it’s a “good works,” a service award. But I came upon a passage that he wrote, which made me realize that good works come in many forms. “Greatness,” he wrote, “lies not in being strong, but in the right using of strength. He or she is the greatest whose strength carries up the most hearts by the attraction of his own.” Without further ado, this year, I am very proud to award the Henry Ward Beecher medal to the student whose quiet strength has carried up the most hearts. So, will August Pullman please come up here to receive this award?

長いですがトゥッシュマン校長の修了式でのスピーチです。クライマックスに向けて、オギーに栄えある「ヘンリー・ウォード・ビーチャー・メダル」が授与されます。校長はメダルの名称の由来となったビーチャー牧師の言葉を引用し、こう説明します。「偉大さとは、ただ強いことではなく、その強さを正しく使うことにあります。その人自身の魅力によって多くの心を引き上げることができる人こそが、真に偉大なのです。」「静かな強さ」で多くの人々の心を動かしたオギーの姿が、この言葉にぴったりと重なり、感動的な場面となっています。

印象的な言葉⑦: 人をいたわれ。みんな闘っている。

Be kind, for everyone is fighting a hard battle. And if you really wanna see what people are, all you have to do… is look.

人をいたわれ。みんな闘っている。相手を知りたかったら、やることは1つ。よく見ること。

作品を締めくくる、オギーの印象的なナレーションです。ブラウン先生が子どもたちに贈った最後の格言として紹介されており、すべての人がそれぞれの事情を抱えながら懸命に生きており、だからこそ、互いに思いやりを持って接することの大切さを説いています。

この格言に呼応する形で、本作にはオギーの視点だけでなく、姉ヴィア、ヴィアの親友

ミランダ、母親イザベル、そしてオギーの友達ジャックなど、さまざまな登場人物の視点から描かれた場面があります。彼ら一人ひとりが、それぞれの事情や葛藤を抱えながら生きており、その多様な視点を通じて、「親切さ」の本質が浮き彫りにされています。

なお、Be kind, for everyone (that you meet) is fighting a hard battleという言葉が誰のものかについては諸説があります。いずれにせよ、類似した表現が時代を超えて伝わり、多くの人の共感を呼んできたのでしょう。

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『ワンダー 君は太陽』のような魅力的な映画を授業に取り入れることで、英語学習の楽しさを広げる可能性が期待できると感じます。本作品に登場する印象深いセリフの数々は、学びにおいて特別な瞬間を生み出し、心に残る体験を提供することでしょう。このような映画を活用した英語教育は、学習者に多様な学びの機会を提供し、単なる言語習得を超えた豊かな経験をもたらす力を秘めていると思います。これからも皆さまとともにアイデアを共有しながら、映像を活用した英語教育の可能性をさらに探求していきたいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

【参照文献】

Palacio, R. (2013). Wonder. Corgi Childrens.

Palacio, R. (2015). 365 Days of Wonder Mr. Browne’s Precepts. New York: Alfred A. Knopf.

Palacio, R. (2023). White Bird: A Wonder Story. Penguin Books Ltd.

パラシオR.J. (2015). 『ワンダー』. (中井はるの, 訳) ほるぷ出版.

【映画】

Chobosky, S. (Director). (2017). Wonder [Motion Picture].

Forster, M. (Director). (2024). White Bird [Motion Picture].

【ウェッブサイト・ウエッブページ】

Dyer, W. W. (2025, 1 10). How To Forgive Someone Who Has Hurt You: In 15 Steps. (Hay House, Inc) Retrieved from DrWayneDyer.com: https://www.drwaynedyer.com/blog/how-to-forgive-someone-in-15-steps/

International Churchill Society. (2023, January 17). Quotes Falsely Attributed to Winston Churchill. Retrieved from Internal Churchill Society: https://winstonchurchill.org/resources/quotes/quotes-falsely-attributed/

Quote Investigator. (2010, June 29). Quote Origin: Be Kind; Everyone You Meet is Fighting a Hard Battle. Retrieved from Quote Investigator: https://quoteinvestigator.com/2010/06/29/be-kind/

キノフィルムズ. (2025年1月10日). 映画『ワンダー君は太陽』公式サイト. 参照先: http://wonder-movie.jp/

記憶に残る授業

竹原文代 (神田外語学院)

1990年頃の話です。大学の必修英語の授業で先生から突然『映画を観てメタファーを学びます』と言われ、単に映画を楽しむのではなく意識的にメタファーを探しながら観るという経験を初めてしました。なぜ必修英語で映画を使うのか、二十歳そこそこの未熟者だった私にはテキストを使わない授業があまりに斬新で少し戸惑いを覚えました。さらに、その映画がイタリア映画だったこともあり(英語字幕でしたが)、戸惑いは次第に不信感へと変わりかけました。

教える立場になり思うのは、先生は単に教科書の内容を口頭で説明するのではなく学生の興味を引きながら知識を記憶に定着させる方法を模索していたのではないか、ということです。必要な情報や定義はテキストに書いてありますが、それを単なる試験対策ではなく一生の財産として記憶に落とし込むことこそが教える側の腕の見せどころです。しかし、『これから知識を定着させるために…』などと前置きしてしまえば、まるでマジックの種明かしをするようなもの。ワクワクやドキドキがなくなり印象にも残らなかったでしょう。

その先生が男性だったことは覚えていますが、名前も顔も思い出せません。しかしながら映画を使ってメタファーを教わった授業のインパクトが30年以上経った今でも蘇るという点でその授業は大成功だったと言えます。

授業で使用した映画は1988年公開の『ニュー・シネマ・パラダイス』(Nuovo Cinema Paradiso)でした。ご覧になったことのない方も、エンニオ・モリコーネが作曲した劇中曲を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この映画を観たことのない方、または昔観たことがあるけど見返していない方へ、少し脱線しますがまた観たくなる(かもしれない)情報を共有します。

① 劇場版ではなく完全版をお勧めします。この映画は、少年期・青年期・成人期と一人の男性の人生を描いています。しかし劇場版では、成人期の重要なシーンがカットされており、大切な人との再会が描かれていません。

② メタファーが至る所にあります。キーワードは『マリア像』『鐘』『広場(と犬)』『悪天候(不吉な予兆ではなく、効果的に心情を表しています)』、そして『ほつれた毛糸』です。

話を戻しましょう。

皆さん、ご自身の学生生活を振り返って、思い出せる授業はいくつありますか? 印象に残っている授業で一番古い記憶はいつのものでしょうか? それはどんな授業でしたか?

私はこの授業の他にもいくつか忘れられない授業がありますが、共通するのは五感に強く訴えかけるものがあったこと、そして感情が大きく揺さぶられたことです。

映画や動画を授業に活用するのは、こうした点で非常に有効だと実感しています。どのように使ったら効果的か、タイミングやさじ加減をどうするか。より良い授業を目指して、これからも試行錯誤し続けたいと思います。

映画のスピーチシーンに見るコミュニケーション


守田 美子 (大妻女子大学)


映画の中で、登場人物のスピーチが全体のストーリーのハイライトになっていることは珍しくありません。2014年に公開の映画 『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(オリヴィエ・ダアン監督)もそのひとつです。

主人公のグレース・ケリーはアメリカに生まれ育ち、ハリウッドスターとして輝かしいキャリアを築いた後、1956年に26歳でモナコ君主のレーニエ大公と結婚してモナコ公妃となりました。映画では、結婚6年後の1962年に舞台を設定し、「おとぎ話のプリンセス」ではなく、ひとりの女性として苦悩するグレース公妃を描きます。ただし、実在の人物を主人公にしていますが、史実を交えつつ、映画ならではのフィクションも取り入れて製作されたものです(以下、映画内容の核心に触れる箇所を含みますので、視聴していない方はご注意ください)。

問題のスピーチシーンは、グレース妃が各国首脳や著名人を招いたモナコ赤十字主催の舞踏会での挨拶です。このスピーチは、実は最初から最後まで間接的な表現や比喩の連続です。ここでは、その中にある次のセリフを取り上げたいと思います。

And in a way that is why… That is why I am Monaco.

表向きは大公妃の挨拶ですから、「皆様、モナコへようこそ。モナコは素晴らしい国です。わたくしは人道的精神に則り、皆様と同じように、愛に溢れたよりよい世界が実現を求めて努力してまいります」といったことが述べられるのですが、本当に伝えたいメッセージは別にあり、上に挙げた「私はモナコ」というメタファーを含んだセリフが、それを読み解くカギとなっています。

複雑なスピーチの背景にあるのは、当時のモナコと隣国フランスとの緊張関係です。この時、フランスのド・ゴール大統領は、国境封鎖という圧力をかけて、モナコ公国に税制度の見直しを迫っていました。以前からモナコの税金政策がフランスの国益を損なっているという不満を持っていたからです。モナコは国面積がバチカン市国に次ぐ世界第2位と小さく、海岸線を除いた全ての国境はフランスと接しています。国境封鎖は公国にとって存亡の危機に他なりません。映画の中では、グレース妃が舞踏会を開催した真の目的は、大国フランスを怖れてモナコを支援しない欧米諸国を味方につけること、という設定になっていました。

スピーチは、各国からモナコに足を運んでくれた招待客への感謝から始まります。次にグレース妃は、結婚してアメリカからモナコに移り住んで以来、モナコは私の家であり、国民は家族だ、なぜなら私はモナコを選択したのだからと話します。これに続くのが、「だから私自身がモナコなのです」という、先に引用したセリフです。その後、私はたとえ軍事侵攻されても逃げることなく、愛のある世界を信じて、世界をより良くするため、自分ができる努力を続けると言った決意を述べています。

主語は私(=グレース妃)となっていますが、「私はモナコ」と宣言すれば、その後の主語は全て、モナコに置き換えることが可能になります。スピーチ前半のグレース妃は、映画スターから大公妃に転身した「おとぎ話のプリンセス」そのものです。彼女は、人々が自分に求める「理想の女性像」を完璧に演じて、招待客を魅了します。そして、後半は自分とモナコを一体化させて、自身に集めた共感を一気にモナコの国際的立場への理解につなげていきます。

この場面は史実というより「映画的な演出」である可能性が高いと言われていますが、印象深いシーンです。ニコール・キッドマンが演じるグレース妃のスピーチは、美しく、けなげな風情でありながら、大公妃としての威厳、そして身を挺してモナコを守ろうとする強い覚悟を感じさせます。論理明快なスピーチばかりが、人の心に伝わるとは限らないという当たり前のことを、私たちに改めて気づかせてくれます。

授業の導入としての歌~「フォレスト・ガンプ一期一会」を一例として

            藤田久美子(進学塾TOMAS講師)

英語の授業で映画や歌を教材として使うことの意味については、すでに多くの方が論じていらっしゃり、わざわざ確認する必要もないとも言えますが、それでも、大学講師として英語を教えていた時には、私は毎年の授業の初めに、何度も自分で確認して、使用する映画や歌を選んでいました。映画に関して言えば、先ず何よりも、「俳優達の生の英語による、素晴らしい人間ドラマを見せることが出来る」という利点が挙げられます。フィクションではあっても、登場人物の喜びや悲しみ、苦悩、また、他者との関りを見、それについて考えることは、他の手段ではなかなか出来ないことです。大学の英語の授業の目的の一つは、英語の実力向上だけではなく、第一級の教材を使うことによって、異文化の人々の考え方や文化、歴史について学び、人間性を深めることにあると考えています。

歌についても同様のことが言えます。素晴らしい内容を歌った第一級の歌なら、十分に教材として使うことが出来ます。私は、英語学習には、音読が極めて大事であると考えています。英語のリズムは、日本語のそれとは相当違ったもので、何度も音読して身に付けていくより仕方がないものです。明治大学の斎藤孝教授は、「英語は日本語に比べて抑揚が大きく、英語らしく朗読しようとすればするほど、その朗読は演劇的に聞こえてくる」と述べています。(斎藤 2003)従って、何かの演劇のセリフや歌の歌詞を朗読してみることは、英語のトーン、次にはそれらの伝える感動を理解することにつながるはずです。歌詞は一種の優れた詩であると考えられるので、歌詞を朗読し、その意味を考え、その後実際に歌ってみることは、実に楽しく、意義あることであると思います。

【授業の導入として使う歌】
私は、授業の開始後すぐに15分程を使って、英語の歌を聞かせるようにしていました。授業のメインは、映画の一場面を見て、セリフの聞き取りと読み取りを行い、登場人物の心情とその場面の意味を考えることですが、その前段階として、英語の歌を聞いてリスニング・ディクテーションを行った後、歌詞を皆で朗読し、その意味を理解させることは、学生達の気持ちを英語に集中させ、やる気にさせるのに効果があったと思います。加えて、英語がそう得意ではない学生も、大部分の人たちが洋楽には関心を持っていることが挙げられます。しかし、英語のポップスはよく聞くけれども、意味をなかなか知ろうとしない人が多いのも事実です。

学生達が好きな曲であれば何でもいいとも言えますが、私は、出来ればクラスで見る映画の内容と関係のあるものがいいと考え、なるべくそうした歌を選んで聞かせました。

私が初めて自分でワークシートを作って学生たちに見せた映画は「フォレスト・ガンプ一期一会」でした。この映画は、多くの先生が教材として使われた経験がおありのようで、授業に適した良い映画であることは、すでに多くの皆さんがご承知でしょう。

この映画は、皆さんもよくご存知のように、トム・ハンクス演じるフォレストが主演の、深い意味での恋愛ドラマだとも言えますが、その外枠は、第二次世界大戦後のアメリカに降りかかった様々な状況であって、そうした状況にフォレストが否応なしに巻き込まれていく様子を描いています。そしてこの映画の正に素晴らしい点の一つは、フォレストが紡いでいく一つ一つのエピソードのバックに、そのエピソード、場面にぴったりの歌や音楽(演奏)が流れることです。この映画の監督であるロバート・ゼメキスと脚本担当のエリック・ロスも次のように言っています。

…The movie Forrest Gump is about time.  A simple man’s journey through complicated times.  The coming-of-age of a generation and a country.  And at the heart of the story is the music.  Music that lives with us, always there to remind us of the people, the places, and the events of our times.  The music of Forrest Gump is as vital as any character—it is a character—complex, and exhilarating, humorous and heartbreaking, the essence of what we once were and will always be… (「Forrest Gump The Soundtrack—32 American Classics on 2 CDs—」より

このように、「フォレスト・ガンプ一期一会」に於いては、音楽や歌は極めて重要なものですが、その中で私が注目し、授業の初めに皆に聞かせてリスニングや朗読、内容解説をしたのは、「Blowing In The Wind」(風に吹かれて・Joan Baez歌、Bob Dylan作曲)、「San Francisco」(花のサン・フランシスコ・Scott Mackenzie)、それに、「Turn! Turn! Turn!」(ターン、ターン、ターン・The Byrds)でした。また、それに加えて、映画の中では歌われませんが、フォレストのジェーンへの深い愛を象徴する曲として、「Bridge Over Troubled Water」(明日に架ける橋・Simon & Garfunkel)も聞かせました。

「Blowing In The Wind」は、ボブ・ディラン作曲の、フォークソングの中で最も有名と言っても過言ではない曲で、この映画の中では、フォレストの幼馴染で、彼が愛するジェニーが、“ジョーン・バエズのような歌手になりたい!”という夢が破れて、酒場で酔った男たちにからかわれながら歌う歌です。ほとんど全裸で、ギターを抱えて歌うジェニーの姿を見かねたフォレストは、彼女を抱きかかえて外に連れ出します。そしてフォレストは、ジェニーに、ヴェトナムに行くことになったと話します。時はちょうどヴェトナム戦争のころです。自分を酒場から連れ出したフォレストに対して、ジェニーは、“Forrest, you stay away from me, OK?” と言いますが、フォレストのヴェトナム行きを知った彼女は、彼に次のように告げます。“If you are ever in trouble, just run, OK?”

ジェニーは子供の頃からいつもフォレストを気遣ってきて、フォレストも、何度も自分から離れていっても、いつもジェニーのことを想い、ずっと愛してきました。この場面は、是非クラスで見せたい場面ですが、その前にこの曲を聴いてリスニング練習をし、その後歌詞を考えてみることは、愛する人々を引き裂く残酷な戦争について考えることになり、意味あることだと思います。

「Blowing In The Wind」の歌詞の一部は次の通りです。

 How many times must a man look up

   Before he can see the sky?

   And how many ears must one man have

   Before he can hear people cry?

   And how many deaths will it take till he knows

   That too many people have died?

   The answer, my friend, is blowing in the wind

   The answer is blowing in the wind

この歌が作られたのは60年程前ですが、ウクライナやガザでの戦闘が続く現代でも、正にリアルな意味を持ち、心に迫る素晴らしい曲です。

「Bridge Over Troubled Water」は、この映画には出てはきませんが、歌詞がちょうど

フォレストのジェニーへの深い愛を歌ったとも取れるので、紹介して、リスニングをやってみるだけの意味があると考えました。

「Bridge Over Troubled Water」(「明日に架ける橋」と訳されていますが、troubled water とは、“荒れた海”、転じて“生きるのに辛い世の中”という意味だと思われます)の歌詞の一部は次の通りです。

  When you’re weary, feeling small

  When tears are in your eyes, I’ll dry them all

  I’m on your side, when times get rough,

  And friends just can’t be found

  Like a bridge over troubled water

  I will lay me down

  Like a bridge over troubled water

  I will lay me down

ほとんど宗教的な色合いすら感じさせるこの曲ですが、使われている単語や表現は易しいのに、歌われている内容は深く、正に聞き取りと部分ディクテーションをするのに適しています。

リスニングについては、曲を聞かせただけでは難しいので、私が再度比較的ゆっくりと読んだ後またやってみましたが、易しい単語や表現の聞き取りであっても、平均して6割程の正解率で、やはり相当難しいのだな、と感じました。内容の読み取りについては、時間の制約もあり、歌詞の意味を考えさせることは難しかったので、ワークシートに予め私の試訳を書いておきました。そしてリスニングの後には、なるべく皆で、歌詞を朗読するようにしました。

【最後に】
私は元々映画や歌が大好きで、英語を習い始めた頃も、主に英語のポップスやミュージカル映画で歌われる歌が教科書以外の大事な教材でした。英語の歌を楽しく歌いながら、英語の勉強をしていったのです。勿論人それぞれですから、歌が特に好きというわけではない方もいるでしょう。でも、歌や映画が好きな方は、私が述べてきた方法を試してくださるといいと思います。同時に、素晴らしいセリフを覚えて(また、学生たちに覚えさせて)、それを、なるべく理想に近い表現で言ってみる(言わせてみる)こともよい練習方法だと思います。とにかく、英語の授業中は、じっと黙っているのではなく、声に出してセリフや歌詞を、またテキストの文章を読んでみる事が大事です。

【参考資料】
斎藤 孝. (2003). 『からだを揺さぶる英語入門』. 角川書店
藤田久美子(2013). 「リスニングとリーディングの応用学習~フォレスト・ガンプの愛のセリフを味わう~」. 『映画英語授業デザイン集』, スクリーンプレイ, 50~53.
The Best Of Simon & Garfunkel. ソニー・ミュージック エンターテインメント
Forrest Gump the Soundtrack(32 American Classics on 2 CDs)
「フォレスト・ガンプ 一期一会」. DVD. パラマウント・ジャパン

YouTube番組を利用した語彙学習

中村佐知子(東北大学)

YouTubeを英語の授業で使用することは、今ではそれほど珍しくなくなりました。授業に少しアクセントを加えるために、YouTubeを使用するという先生方も多いのではないでしょうか。私自身、現在はカリキュラムの都合でYouTube番組を使用することはありませんが、以前は大学の授業で10分程度のYouTube動画を頻繁に使用していました。その際に気をつけていたのは、「できるだけ学生が興味を持てそうな動画を使用すること」と「動画視聴の時間を単なる息抜きにしないこと」です。動画選定については、事前に興味があるトピックをアンケートで調査するようにしていました。

授業でよく使用していたのは、『Paolo from TOKYO』の「Japan Day in the Life Series」です。

Paolo from TOKYO – Japan Day in the Life Series

就職を控えた大学生にとって、社会人の生活は非常に興味深いもののようでした。こうした動画を授業で使用することで、教材以外の英語に触れる機会を提供し、また、使用されている語彙やフレーズを紹介することで、少しでも英語学習に繋げることを意識していました。

学生から非常に好評だった動画の一例がこちらです。

【朝から晩まで完全密着】バンダイナムコスタジオ社員の1日https://youtu.be/e_TxH59MclA?si=Cx2dJmUWvts3Bhcv

TOCIC Service List 1.2(https://www.newgeneralservicelist.com/toeic-service-list)で調べると、この動画には、以下のようなTOEIC頻出単語が含まれることが分かります。

 TSL (TOEIC Service List) Rank
convenient54
coworker85
aisle138
overtime164
commute220
efficient366
refrigerator374
microwave995
unpaid 1092

これらの単語が動画内で使用される際に、一時停止して意味を確認したり、発音練習やディクテーションを行ったりするだけでも、学びの機会に繋がります。さらに、「授業の最後に単語を復習する」「その後の授業でも復習を繰り返す」など、継続的に取り組むことで、記憶の定着を意識した学習に繋げることもできるでしょう。

また、この動画には次のような文も使われています。

How long does it take for you to get ready for work?

How long did it take to develop this game?

これらの文は、ディクテーションや音読練習、さらには定型表現「How long does it take for you to do?」「How long did it take to do?」を使った文の作成練習にも応用できます。

さらに、この動画には、使用頻度が高いとは言えないものの、以下のような興味深い単語も含まれています。学生がこうした単語にも意識を向けることで、英語への興味が芽生えるかもしれません。

super packed「とても混んでいて」

burnables「燃えるゴミ」

non-burnables「燃えないゴミ」

honor system「自己申告システム」(オフィスの置き菓子の説明に使用されていました)

YouTube動画のauthenticな素材を楽しみながら、語彙やフレーズもしっかり学習する。「楽しい」と「英語力がつく」のどちらも諦めない授業づくりを、これからも心掛けていきたいです。

人を慰めたいときのコミュニケーション

濱上桂菜(立命館大学)

親しい人が悩んで困っている時、何とか声をかけたいものですよね。

今回はそんな時に役に立ちそうな映画のシーンを二つご紹介します。

・映画「SING シング」

I know you’re sad right now and probably afraid to try again (…)

今は悲しくて頑張る気にもなれないと思うけど …(省略)

But you told me…”don’t let fear stop you from doing the thing you love.”

でもあなた言ってたでしょ 「恐怖に負けて夢を諦めるな」 と

大切な人が悩み苦しんでいる時には、相手が独りぼっちではないことを伝えたいですよね。そんな時には、まず相手の気持ちに共感するのが大事と言われています。上のセリフでも、まず、I know you’re …の部分で相手の感情に共感しています。そして、その後にBut を使って慰めの言葉をかけるのです。

このセリフの間に目線をどこに向けているかにも注目してみましょう。I know you’re …の部分では目線を相手からそらしていますが、but 以下のところでは相手の方をしっかりと見ています。つまり、本当に伝えたい内容は but 以下の内容と言えるでしょう。この目線の使い方も、人を元気づけたいときの大切なポイントなのではないでしょうか。

・映画「インサイド・ヘッド」

次のシーンは Sadness が Bing Bong を慰める印象的なシーンです。

(この映画は、とある女の子ライリーの頭の中で展開する、キャラクター化した感情たちや空想人物の冒険物語です。)

(Bing Bongは、大事にしていたカートのおもちゃを失ってしまい、悲しみに暮れています。)

Bing Bong: It’s all I had left of Riley.

「ライリーとの唯一の思い出の品なのに」

Sadness: I bet you and Riley had great adventures.

 (カートを使って)「あなたとライリーは大冒険したのよね」

Bing Bong: They were wonderful. Once we flew back in time. We had breakfast twice that day.

「素晴らしかったよ。時間を遡ったこともある。その日は朝食を2回食べたんだ」

Sadness: That’s sounds amazing. I bet Riley liked it.

「すごい。ライリーもそれは喜んだでしょう」

Bing Bong: Oh, she did. We were best friends.

「そうとも。僕たちは親友だった。」(涙を流す)

Sadness: Yeah. It’s sad.

「そうね。悲しいね。」

Sadness は、辛く思っている相手に共感しています。I bet … (きっと…だ)や、 It’s sad. (悲しいね) という表現を使って共感していますね。しかし、驚くべきことに、ここでは一つも具体的な慰めの言葉をかけていません。 But を使って、「だけど、楽しい思い出は心に残ってるでしょ」などの慰めの言葉をかけていないのです。

立ち位置やジェスチャーも印象的です。Sadness は、悲しむ相手と向かい合うわけではありません。相手の横に並んで座り、優しく相手の手に触れています。つまり、相手と同じ方向を向いて、近くにいることをそっと伝えているだけです。

大切な相手をなぐさめる方法は、もちろん状況、人間関係、文化などによっても変わってくると思います。しかし、相手が本当に辛く思っていて、どんな声掛けをしたらいいのかわからない時には、もしかしたら Sadness がしたように共感して寄り添うのが唯一できることなのかもしれません。

A call to research hot new topics within ATEM’s scope

The Association of Teaching English through Multimedia (ATEM) has undergone many changes in the past decade, including changing the name from “through Movies” to “through Multimedia.” These changes are indicative of the changing times and evolving teaching landscape. With this, I have noticed several emerging research topics that I think our members can, and should, look into, but that not many of us seem to be picking up. In this post, I would like to encourage some members to go after some of these new and exciting areas, explaining what they are and why I feel they are important. In no particular order:

<Culture / Literature Related>

1. Comparative culture studies between originals and remakes

While I have seen ATEM members teach about culture through films and other sorts of media, I still see many papers that use a rather old lens to look at more modern cinema. Recently, Hollywood has been producing ever more remakes of and sequels to earlier films (e.g., Disney keeps making real-life remakes of their animated classics, and it seems that every movie popular in the 80s and 90s is getting a sequel or remake that no one asked for). Though the motivation for this is likely profit driven, at least in part, remakes and sequels offer a chance to compare the atmosphere and culture in the country from the original to the remake. While I have seen some of our members notice this, they often stop short at looking at the similarities rather than pointing out the glaring differences and what those implicate about the change in society.

2. Observing the cultural influence of the global market on Hollywood and digital media

Since Hollywood movies gain so much attention, it is not surprising that they are analyzed and used in English teaching as much as they are. One lens from which movies have often been analyzed is as good glimpse into public thought or general ideas of the time of the culture which produced the film. For example, when a county experiences periods of financial or social unease, horror or monster films often become popular (e.g., the German monster films of the 1920s, the Japanese kaiju films of the 1950s and 60s, etc.; Reimer & Reimer, 1992). However, in more recent times, Hollywood films are often changed drastically in order to appeal to a global audience, as opposed to an American one. With this in mind, do Hollywood movies really reflect American ideas and public thought anymore? Furthermore, as the country becomes increasingly divided since the early 2010s, do any films truly represent general though in America anymore?

<Education Related>

3. Innovative uses of multimedia in the English classroom

While ATEM originally focused on just the use of movies in the classroom, there are increasing chances for students to engage with a range of multimedia, and I would encourage more studies on this. Specifically, there is still much room to focus on student-created multimedia as a means of learning (e.g., Spring, 2020a), uses of short video clips presented through streaming platforms (e.g., Ramsden, 2020), and manipulations of text, videos, images, and music to create more interactive experiences (e.g. Nakamura et al., 2024). Now that ATEM focuses on a range of multimedia and it is becoming ever-easier to implement media usage both in the classroom and at home as part of extra studying or flipped-learning, more study will be needed in these areas as well. For example, some burning questions that do not have definitive answers include: Should subtitles be used or not? Does it depend on the level? Should students slow down videos if they find them too fast, or re-watch? Are listening activities better as videos? If so, does it matter what is shown in the video? For example, if students are listening to a lecture about turtles, is it better to have no video, video of a lecturer, video of turtles, or images and text? Do certain patterns promote learning or become a crutch? If we use videos outside of the classroom as part of flipped-learning, how do we ensure that students watch them? How do we turn video watching into a more interactive activity? All of these areas need ever more exploring and the results should eventually be amalgamated via meta-analyses and scoping reviews.

4. Focusing on differences in improvement when teaching English through multimedia

As teachers, our own students often become our participants, making our research quasi-experimental. One common way to test if a method is working is to use pre-/post-testing with a control and experimental group. However, if a teacher truly believes one method to be inferior, is it ethical to give one group of students a worse class to see if it is truly worse? Furthermore, how do we keep research bias out of the results in this case? More importantly, whether or not scores increase on average, there is always variance in how much students improve. I believe a more important question to try to answer when conducting educational studies is why some students improve more than others. By investigating this question instead, we can also see how valid our teaching methods are and what areas we need to improve. This sort of study can be conducted with pre- and post-tests and either regression analyses (e.g., Spring & Takeda, 2024) or repeated ANOVA with covariates (e.g., Spring, 2020b), or even by looking for common themes between our top and bottom improvers (e.g., Spring et al., 2019). If conducting regression analyses, it is a good idea to use the delta scores (post-test minus pre-test) as the dependent variable and include pre-test scores as a means of counteracting the effect of previous knowledge. Furthermore, when conducting these analyses, consider using dominance analysis for best results (Mizumoto, 2023). You can find free tools for doing this here or here: <Mizumoto Tool>, <Spring Tool>

5. The use of video materials as part of testing

Recently, some studies have suggested that using videos to test listening comprehension may be superior to using audio files alone (e.g., Kim, 2023; Suvarov, 2015). Part of the rationale is that video tests are more authentic (when do we close our eyes when talking to others?), and part of the rationale is that the videos provide more context via their visual cues, which ensures that we are testing listening ability and not the ability to conjecture what situation two speakers are in from audio clues alone. This areas is both extremely understudied, but also well within the scope of ATEM.

<Linguistics Related>

6. Checking for linguistic change in spoken English

Thanks to the movie corpus (Davies, 2019), it is easier than ever to conduct corpus studies on linguistic elements and match these to dates when they emerge and how frequent they are in particular decades. As should be apparent to any linguist, language is always changing and evolving. As movies tend to be a good gauge for commonly known and understood spoken registers, they can also be used to track changes in the English language. Not only is this good for finding out the latest trends in slang and new expressions, but it can also help us to know when certain expressions and turns of phrase have begun to fade away. A good example is of the past tense of the verb “dream” in American English. While both “dreamt” and “dreamed” were both quite common up until the 1950s, the former began to fall out of usage, and is rarely used in recent times. However, I’m sure this is not the only change, as I often notice differences in my own vernacular and that of my parents and older generations.

7. Linking linguistic examples to SLA

Many linguistics papers have been published in the ATEM journal that apply theory to actual examples found in visual media, such as movies. However, more work is still required to point out the benefits of teaching these discoveries from a second language acquisition (SLA). For example, it could prove beneficial to find examples of theoretically difficult to parse syntactic or semantic structures from film and visual media and then test how well students are able to understand these expressions when presented with them. While we often assume that students have some syntactic or semantic knowledge, SLA studies that test students’ ability to parse or understand such structures do not always produce results congruent with our assumptions. This is especially true in the context of visual media, as the various context clues from the visual media may actually provide students with the extra information required for them to understand the supposedly difficult structures. Therefore, I believe work is warranted as to which are difficult to understand both with and without visual media, what the differences in these types are. This may help further our understanding of the types of visual media that we need to use to help students understand linguistically difficult structures more easily. This potentially overlaps with suggestion (5).

It is my hope that by suggesting some of these potential topics and tools, ATEM members can potentially branch out into new topics or use their pre-existing knowledge to help solve some of these mysteries. I also encourage new, young researchers to pick up some of these topics and areas, and potentially reach out to me or other, more senior ATEM members for help. There are a lot of possibilities and potential in our field, and yet, much of it remains unexplored. I implore the next generation or researchers and educators to begin looking into these topics, and the current and older generations of researchers and educators to help the next generations to develop the skills to research these topics in depth and present their results so that we may all benefit from their findings.

References and Suggested Readings

Davies, M. (2019) The Movie Corpus. Available online at https://www.english-corpora.org/movies/.

Kim, J. (2023, September 15). Test takers’ interaction with context videos in a video-based listening test: A conceptual replication and extension of Suvorov (2015). https://doi.org/10.31219/osf.io/r83by

Nakamura, S., Spring, R, & Sakurai, S. (2024) The impact of ASR-based interactive video activities on speaking skills: Japanese EFL learners’ perceptions. TESL-EJ, 27(4). https://doi.org/10.55593/ej.27108a5

Ramsden, T. (2020). Jiritsuteki gakushu o unagasu jugyogai gakushu no kokoromi: YouTube bideo report [An attempt at encouraging autonomous study outside of the classroom: YouTube video reports]. ATEM Journal, 25, 17–30. https://doi.org/10.24499/atemnew.25.0_17

Reimer, R., & Reimer, C. (1992) Nazi-retro film: How German narrative cinema remembers the past. Twayne.

Mizumoto, A. (2023). Calculating the relative importance of multiple regression predictor variables using dominance analysis and random forests. Language Learning, 73(1), 161–196. https://doi.org/10.1111/lang.12518

Spring, R. (2020a). Can Video-creation Project Work Affect Students’ Oral Proficiency? An Analysis of Fluency, Complexity and Accuracy. TESL-EJ, 24(2). http://www.tesl-ej.org/wordpress/issues/volume24/ej94/ej94a1/

Spring, R. (2020b). Maximizing the benefits of video-creation PBLL in the EFL classroom: A preliminary analysis of factors associated with improvement in oral proficiency. STEM Journal, 21(4), 107–126. https://doi.org/10.16875/stem.2020.21.4.107

Spring, R., & Takeda, J. (2024). Teaching phrasal verbs and idiomatic expressions through multimodal flashcards. STEM Journal, 25(2), 40–53. https://doi.org/10.16875/stem.2024.25.2.40

Spring, R., Kato, F., & Mori, C. (2019). Factors associated with improvement in oral fluency when using Video-Synchronous Mediated Communication with native speakers: An analysis of 3 years of data from a Skype partner program. Foreign Language Annals, 52(1), 87–100. https://doi.org/10.1111/flan.12381

Suvorov, R. (2015). The use of eye tracking in research on video-based second language (L2) listening assessment: A comparison of context videos and content videos. Language Testing, 32(4), 463–483. https://doi.org/10.1177/0265532214562099

『歩道の三人女』(Three on a Match, 1932)におけるマッチにまつわる迷信

飯島さや(武蔵野音楽大学 非常勤講師)

 フィルム・ノワール、『スカーレット・ストリート』(Scarlet Street, 1945)の冒頭のシーンで、男性主人公は上司から勧められて葉巻を吸う。ここで取り上げられているのは、マッチにまつわる迷信である。このシーンから示唆を得て、『歩道の三人女』の考察に至った。本作の原題であるThree on a Matchは、アメリカにおける当時の迷信を踏まえている。この迷信によれば、1本のマッチで3人のたばこに火をつけると、最後の1人が命を落とすことになる。その由来は以下の通りである。映画内で提示される記事“Take Our Word for It”では、マッチ王といわれた実業家、イーヴァル・クルーガーの策略によるものだと明言されているが、実際には諸説あるといわれている。 

  The Saying- “Three on a Match Means One Will Die Soon” did
not originate in the war, where it was said that to hold a match
burning long enough for three lights would attract enemy gun
fire. It did originate with Ivar Kreuger the Swedish Match King,
who wanted the world to use more matches. It is reported that
the saying brings his companies $ 5,000,000 more revenues
annually. (Three on a Match)

 つまり、戦場での必要性からではなくクルーガーによる商業戦略の一環として、より多くのマッチを使用するよう奨励された事情があるようだ。

 さて、映画のシーンを分析していこう。幼なじみの3人の女性たちは、10年ぶりに偶然再会し、ランチをしながらタバコを吸っている。マッチに火をつけるのは、テーブルの中央に座るメアリーである。初めにルース、次にメアリー自身、最後にヴィヴィアンのたばこに火をつける。カメラは左から右に動き、たばこを吸い始める彼女たちを途切れなく捉える。とりわけ、ヴィヴィアンのたばこに火をつけるメアリーの右手は、若干クロースアップされているように見える。ヴィヴィアンが3人目、つまり彼女が犠牲になることがほのめかされていると考えられる。そして、メアリーは「マッチの呪い(Three on a match)」と言い、ヴィヴィアンは”What’s the difference?” と答える。Collins Online Dictionary​によると、”What does it matter?” と同義表現であることから(https://www.collinsdictionary.com/jp/dictionary/english/whats-the-difference​)、「そんな迷信なんかどうだっていいわ」と訳すのが妥当だろう。ヴィヴィアンに限らず、もう大人になったのだから私たちは迷信なんか信じない、という3人の女性たちの心境がヴィヴィアンの台詞に集約されているといえる。

 ヴィヴィアンの悲劇的な末路について、ここで敢えて言及しないが、エンディングの描写について少し触れておきたい。暖炉の前にあるソファーにメアリーとルースが座っている。そして、メアリーはルースと自らのたばこに火をつけ、暖炉にマッチを投げ捨てる。このマッチの描写が印象的であり、2つの解釈が考えられるだろう。マッチはヴィヴィアンを思い出すものとして取り入れられ、彼女に対する追悼の意を表しているという説。それとは裏腹に、マッチのように燃え尽きた彼女の運命に対する皮肉がほのめかされているという説が挙げられる。私は後者であると思うが、このエンディングについては更なる考察が必要であるだろう。

 今まで述べてきたように、『歩道の三人女』において、迷信では不吉とみなされている行為と、女性たちの人生が重ね合わされ、数奇な運命をたどる1人の女性像が強調されている。登場人物像をより深く理解するためには、映画公開当時における文化的、歴史的背景を吟味することが求められているのである。

映画『メッセージ』(Arrival, 2016)に見る人生の選択


日影尚之  麗澤大学


 『ブレードランナー2049』や『デューン 砂の惑星』などでも知られるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF映画『メッセージ』(Arrival, 2016)について少し考えてみたいと思います。この映画の始まりと終わりは、同じ悲壮な弦楽曲にオーバーラップする主人公の言語学者Louise Banksの語りで繋がっています。プロット的には、宇宙船で地球の12か所に同時にやってきたまま宙でじっとしているエイリアン(heptapod)たちに対して、Louise が謙虚な態度で文字によるコミュニケーションを積み重ねながら、彼らの言語(つまり外国語)を学んでいきます。新しい言語を学ぶことは思考方法(Louise に関して言えばその時間認識や「原因ー>結果」などの固定観念)を変える(複眼化する)ことであり、次第に彼らのメッセージに気づいていき、大切なことばを知る/思い出す/伝えることで人類を戦争の危機から救うことになります。
 

エイリアン(alien:見知らぬ相手、馴染みのない存在、異なる者、外国人、宇宙人などの意味)に対して、Louise の方は必要以上に怖がることなく、防護服(鎧兜)を脱いでコミュニケーションを取ろうとするのに対して、「見知らぬ存在」を極度に警戒し、軍事力を誇示したり、勝敗や敵味方などの二項対立的思考(zero-sum game)にとらわ
れたりする軍および安全保障関係者(主として男性たち)の態度が対照的です。同じように、エイリアンが言う“weapon”を「武力」ととらえ、警戒と敵対関係・分断を強める地球各国の指導者に対して、そういう意味ではない、信頼と協力の方向に舵を切るようにと人類が異星人に教えられる経験をします。
 

 しかし、異星人とのコミュニケーションを通じてLouiseの人生には、物理学者Ianとのロマンスが生まれます。Hannahという回文のような名前をつけられた、やがて生まれ若くして亡くなるらしい娘のビジョンをはさんで、エイリアンたちの真意を理解しようと奮闘するLouiseの姿は、一人の人間として、先の運命を知っていてもその娘を産み育てる選択をする(そのことを受け容れた上で日々を生きていこうとする)物語にもなっています。映画の最後に主人公が語る静かな決意 “Despite knowing the journey and where it leads, I embrace it, and welcome every moment of it.”(どうなるかがわかっていたとしても、人生の瞬間瞬間を大切に生きていく)は、Everett Hamner (2017)が示唆するように、例えば、遺伝子研究の進展やそれに基づく確立的データの蓄積などにより、未来がある程度の確率で予想できるかもしれない時代を生きる我々が、そうした情報をどう受け止め、どう生きていくのかについて考えるヒントになるのかもしれません。


主要参考文献
Hamner, Everett. (2017). Editing the Soul: Science and Fiction in the Genome Age.
Pennsylvania State University Press.