「東日本支部便り」カテゴリーアーカイブ

<食>を巡る映画で学ぶことばと文化ー 『マダム・マロリーと魔法のスパイス』(The Hundred-Foot Journey, 2014)の場合

題名 

日影尚之 麗澤大学  

 大学の授業で<食>を巡る映画を扱っているのですが、今回はその中からラッセ・ハルストレム監督の『マダム・マロリーと魔法のスパイス』(The Hundred-Foot Journey, 2014)の場合を例として取りあげたいと思います。(以下、ネタバレがありますのでご了承ください。)

 インドからヨーロッパに移住した Kadam家の次男 Hassan は、フランスの地方でインド料理のレストランを開きますが、通りを挟んで真向かいにはマダム・マロリーの由緒あるフレンチレストランがあり、この両レストラン(両家)間のバトルが展開します。フランス料理を独学で勉強し、能力を認められた Hassan はやがて、敵対する両レストランを隔てる通りーインド文化とフランス文化を隔てる壁ーを超えて、マダム・マロリーのレストランの厨房で活躍することになります。

 ある先生からもご指摘いただいたことですが、英語のタイトルの “hundred-foot journey” 「徒歩で百歩の旅」とは、通り一本超えるだけの短い距離でも、その文化的壁を超えることの困難さを“journey” という英語で表現しているのです。同じ「旅」や「移動」を意味する英語でも、例えば travel, trip, journey, tour, voyage, pilgrimageなどがありますが、journeyは比較的長い困難を伴う旅の場合に使ったり、何かを学ぶプロセスの比喩として使ったりします。「精神的な旅」のような使い方です。

 さて、Hassanの評判は地方を超え、彼は前衛的な料理の発明(innovation)の最前線であるパリの研究所に招聘されますが、最終的に彼はまた地方に戻り、マダム・マロリーからフレンチレストランを引き継ぐという、移民男性のサクセスストーリーです。

 さて、話題をジェンダーに移します。フランスに移住してきた Kadam 家を最初に助けたり、Hassan にフランス料理の教科書を借してくれたりしたのは、フレンチレストランで働くMarguerite という若い女性です。Hassanは彼女をビジネスパートナーそして人生のパートナーとして、2人でフレンチレストランを引き継ぎます。また、まだインドにいた当時、Hassanに料理の “こころ”を教えてくれたのは亡き母ですし、母の形見である「秘密のスパイス」一式を彼は大切にします。亡き母が彼の人生の成功を陰から支えています。<食>つまり料理を通じた移民のサクセスストーリーの表に出るのは Hassanという男性、重要な役割を果たすが、陰でサポートするのが女性という構図になるでしょう。もちろんここでいう料理は、いわゆる“家庭料理”ではなく、キャリアとしてのプロの料理であることにも注意する必要があるでしょう。

参考文献:Laura Lindenfeld & Fabio Parasecoli, Feasting Our Eyes: Food Films and Cultural Identity in the United States, Columbia University Press, 2017.

食事の場面から異文化を楽しむ

大月敦子(専修大学)

 アフタヌーンティーは、夕食の前の午後のひと時に紅茶と共にサンドウィッチ、スコーン、ケーキなどを食べる英国上流階級の人々の習慣であるが、もともとは夕食の時間帯に観劇、オペラ鑑賞、パーティーがあったため、その前に軽くお腹を満たすための軽食として始まったものだ。菓子やサンドウィッチが2段、3段に重ねたティースタンドに載せられて運ばれる。ヒッチコック監督の映画『レベッカ』Rebecca(1940)の中で、ジョーン・フォンテン演じる「わたし」が窓際のソファーに座っているときに、メイドが紅茶の次に運んでくるのが、このティースタンドである。アフタヌーンティーはダイニングではなく、ラウンジでソファーに座って食べるのが正式だ。 近年、日本でもこのアフタヌーンティーが人気らしく、提供するレストランやホテルが増えているようだ。優雅な気分で美味しく食事ができる、ヴィクトリア朝時代の文化遺産だ。一度くらい経験してみたいものだが、働かずして贅沢な生活をするイギリス上流階級の人々の遺産でもある。

  TVドラマ『アンという名の少女』 ANNE with an‟E”(2019)では、カナダ開拓時代の興味深い料理を見ることができる。主人公のアンやマリラ達が作る朝食、昼のお弁当、夕食、クリスマスディナー等、ほとんどの食材が自給自足によるものである。台所の流し台の脇には井戸があり水を汲む。また収穫したベリーやプラムから作った自家製ジャムやクッキーを、友人や隣人たちにおすそ分けをする。そしてその友人や隣人たちが病気になれば、行って食事を作る。ひと昔前の日本でも似たような光景があったと思うが、開拓者同士の深い絆を物語る。また興味深い習慣として、学校に通う生徒達が、持参した水筒を校庭の脇の冷たい湧き水に浸す。さらに蜂蜜が傷薬に利用できることをネイティブカナディアンから教わり、ギルバートが医療を学ぶきっかけとなる。食事や食物の場面から開拓時代の人々の生活を垣間見ることができる。

 次にアメリカの代表的料理として日本でも馴染みのフライドチキンについて、よく分かる映画『ヘルプ』The Help(2011)がある。この作品は公民権法制定(1964)直前のミシシッピー州ジャクソンを舞台とした、アフリカ系アメリカ人女性達がヘルプ(メイド)として働き差別と闘った話だ。そもそもフライドチキンは、メイドたちが、それまで捨てられていた鶏の手羽先や内臓等の部位を味付けし、油で揚げて食べたのが始まりという。この映画の中でヘルプの一人ミリが、フライドチキンはクリスコ(Crisco)というショートニング(豚の油)で揚げるのが定番で、‟The most important invention since they put mayonnaise in a jar.”と言う。そしてこのクリスコで揚げたフライドチキンがミリの子供達の食卓に並ぶ。現代のテキサスを舞台とした映画『リトル・ミス・サンシャイン』Little Miss Sunshine(2006)でも、少女オリーヴの母親が夕食にフライドチキンを箱ごとテーブルの上にドンと置く。それに対して少女の祖父が「また今日もフライドチキンかよ!」と怒鳴り散らす。だが結局のところ一家は美味しそうに食べる。かつてはメイドたちが自分たちのためにクリスコで揚げたフライドチキンが、今では広くアメリカ社会に根付いていることがわかる。

 最近の映画やTVドラマの中には必ずと言っていいほど食事の場面が映し出され、時には登場人物たちが食べている料理の中身や料理法まで詳しく描かれる。人々の食に対する興味の高まりが背景にあるのだろう。それぞれの時代や地域の興味深い料理を映像から見ることができ、さらにそこから文化を知ることができる。おかげで映画やTVドラマを観る楽しみが増え、異文化を知ることができ嬉しい限りである。

参考資料

『レベッカ』Rebecca(1940).株式会社オルスタックソフト販売                       『アンという名の少女』 ANNE with an‟E”(2019).NHKエンタープライズ                     『へルプ』The Help(2011).ウォルトディズニー・スタジオ・ジャパン                    『リトル・ミス・サンシャイン』Little Miss Sunshine(2006) .20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン株式会社

  『ブルックリン』(Brooklyn)が描く、人間への温かい眼差し

学習塾TOMAS 講師(元白梅学園大学講師)

藤田久美子

2016年度公開の映画「ブルックリン」は、派手なアクションも、サスペンス的要素もないヒューマン・ドラマであるが、何度見ても感動的な映画である。第二次大戦後間もない頃にアイルランドからアメリカに渡った一人のアイルランド人女性の苦悩と成長を描くこの映画は、実際にアイルランド系であるシアーシャ・ローナンが主役のエイリッシュを演じ、アカデミー主演女優賞に輝いたが、単なる移民女性の話にとどまらない深さを持っている。

戦争には直接参加しなかったアイルランドだが、戦後の経済の停滞は、どの国とも同じで、エイリッシュのような若い女性には明るい未来が描けるような仕事もなく、彼女は、姉の知り合いの神父のつてで、アメリカに渡り、プルックリンで生活を始める。相当大きなデパートで店員として働けることになった彼女は、ホームシックの他に、客や同僚とのコミュニケーションがうまくできないことで苦労することになる。真面目な性格のせいもあるが、アメリカ人なら何でもなくできるはずのコミュニケーションが、彼女にはなかなかできない。その様子が次のような場面に、ユーモラスに描かれる。

           同僚:Did you go out last night?

   エイリッシュ:No.

             同僚:”I saw a movie with my boyfriend.”

                    “What did you see, Dorothy?”

                    “I saw The Quiet Man, Eilis.  They filmed it in Ireland.”

                    “Oh, I’m from Ireland.

                    “I know you are.  That’s why I thought you might be interested.”

こうした、”あるべき問答”まで教えてくれる親切な同僚だが、エイリッシュは、ただThank you.”と返すのみである。私たちには面白いこのような状況を乗り越えつつ、彼女は、段々にブルックリンでの暮らしに慣れ、ブルックリン・カレッジの夜間クラスで簿記を学び、無事卒業する。

地味だが、真剣に彼女を愛してくれるイタリア系のトニーという恋人を得て、彼女は漸く本当の幸せを感じるようになったが、その頃、最愛の姉のローズが急死し、彼女はアイルランドへ戻ることになる。故郷のエニスコーシーの町には、一人残された母がおり、懐かしい景色、懐かしい友人たちとの出会いがあったが、彼女は、この故郷で、人間としての成長を一段と促されることになる。

実は、エイリッシュは、アイルランドへ帰る直前に、トニーと結婚していたのだが、それは、二人きりの秘密で、だれにも知らせてはいなかった。母と再会して、本当は真っ先に話さねばならないことであったが、すぐには話せなかったのだ。姉娘を急に失った母に、アメリカ人と結婚して、この先ずっとアメリカで暮らすとは言いにくかったし、友人仲間の一人で、彼女に好意を持っているジムと結婚してくれたら、という母の願いを分かってもいたからだ。

しかし、なかなか本当のことを打ち明けられず、ジムと何度かデートする彼女を責められるであろうか?彼女はジムの気持ちをはっきり受け入れることはなかったのだから。アメリカでの暮らしで、周りの人々から羨望の目で見られるほど一段と美しく、洗練された自分を多少誇らしく思い、男性にもてることを楽しんだとしても、それは、人間としての当然の弱さではあるまいか?

そうした浮かれた気分に水をかけられ、真実の自分に向き合わねばならなくなる時がやがて訪れる。アメリカでのトニーとの結婚を知っている人がいたのだ。いわば目が覚めたようになったエイリッシュは、すぐにニューヨークへの船を予約し、母に真実を話す。自分がアメリカで結婚し、その人は自分を心から愛する素晴らしい人であること。彼のところへ帰りたいこと。自分のそばにずっといてくれると思っていた母にとっては辛いことであろうが、それこそが彼女の真実であった。

ニューヨークへ向かう船の中で、彼女は、初めてのアメリカに不安を感じている若い娘に、以前この娘と同じ立場だった時、同じように船上で年上の女性に言われたことを話す。

            Stand up straight.

                 Polish your shoes….

                 Think like an American

                 You have to know where you’re going.

「人間とは、何度も間違いをする存在であるが、そうした間違いを何度も犯しながら、自分の弱さを知り、許されて成長してゆく存在でもある」。この映画は、見るものに、このようなメッセージを送っているように思われる。

字幕アプリで英語を勉強しよう

吉牟田聡美(ATEM東日本支部、活水女子大学)

昨今は、自宅で観たい映画を選び楽しめる時代になりました。コロナ禍で外出を自粛せざるを得ない日々になって一層Amazon Prime VideoやNetflix, YouTube等々の動画配信サービスで映画を楽しむ機会が増えたのではないでしょうか。世界中の映画やテレビ番組を無尽蔵に観られるのですから、英語の勉強に活用しない手はありません。

 本コラムでは、動画配信サービスを外国語学習に用いる方法について考察してみます。ATEMにつながる映画・動画の専門家の方々は、既にご存じかと思います。どうか御笑覧ください。

 今回、外国語学習の一助として紹介するのは、私がAmazon Prime Videoを視聴する学生に紹介しているSubtitles for Language LearningというGoogle Chrome のextensionアプリです。Chrome上でダウンロードして無料で使用できます。

 このアプリに備わっている主な機能は、低速から二倍速までの再生速度変更、10秒早送り・巻戻し再生、言語字幕表示、表示タイミングの調整、辞書と連携した語義の表示、AI翻訳によるセリフの戻し訳等々です。

 二倍速再生は(真の映画ファンには邪道と怒られそうですが)一本の映画を短時間で観る際に用いて概略をつかみます。

 低速再生や10秒巻き戻しは、聞き取りの難しい部分に使います。脳内で聞こえた単語をタイプで打ち出すように強く認識しながら視聴します。私はこれを『脳内ディクテーション』と読んでいます。巻き戻しは「あ、今のセリフ何と言った?」という時、即時強化できます。

 字幕表示機能は、Prime Videoで映画の字幕版を選び、このアプリで映画字幕を表示させれば、映画は日本語字幕、アプリで英語字幕とひとつの画面に二言語の字幕表示が可能です。これは今まで高価な再生ソフトでしかかなわなかったので、画期的です。

 表示のタイミングを調整する機能も秀逸で、二秒程度遅く字幕を表示するように設定すれば脳内ディクテーションの答え合わせを即時に行えます。また、二秒先に再生すれば、目で見た英単語句の発音を確認することができます。

 辞書機能では、字幕の英単語の上にマウスオーバーさせれば、意味が自動表示されます。

 最後に、このアプリが表示するセリフにはDeepLとGoogle翻訳のアイコンがついているのでクリックすればセリフの直訳(機械翻訳)へと導いてくれます。

このように、本アプリには言語学習に有益な機能が満載なのですが、懸念のひとつは、こうした動画配信サービスでは字幕翻訳・吹替翻訳を担当した翻訳者名が明示されないことです。

 今回、DVDの戸田奈津子氏の字幕と同一の翻訳であるかどうか『ドリームガールズ』(2007年日本公開)で検証して、一貫して戸田氏の訳が使用されていることが判明しました。市販のDVDと同一の可能性が高いとしても、留意すべき点かと思われます。

 最新のアプリを使ったところで映画を聞き流して脳が活性化しなければ意味がありません。映画を用いた言語学習ストラテジー(オクスフォード、1990年)注1)が必要となるわけです。一本の作品の気に入っているシーンを含む10分程度のパートを音声と字幕の組み合わせを変えながら何度も視聴することを学生には勧めています。日本語音声ー日本語字幕、日本語音声ー英語字幕、英語音声ー日本語字幕、英語音声ー英語字幕などです。私もかつて『ハリーポッターと賢者の石』(日本公開2001年)をレンタルして一週間違う組み合わせで視聴し、返却するころにはラストシーンのセリフをイギリス英語の発音でそらんじていました。

 学習者の適性にもよりますが、一般的には多くの言語材料を一度にインプットするよりも、むしろ繰り返し同じ刺激を与えたほうが記憶には効果的かと思います。

 

 また、上で述べた視聴中のセリフの脳内ディクテーションは聴覚の集中力を高め、聞こえた英単語句の答え合わせは即時強化の強化子となり次へのモチベーションにつながると予想されます。またセリフ集を手元に置き、聞き取れなかったところに印を付け、再度聞き直すというアクションは地味ですが有効なストラテジーです。

 またリスニングだけではなく、アプリの字幕を2秒程度先に見ながら登場人物になったつもりでオーバーラップやシャドーイングすると目、耳、口という三つの感覚器官を使う刺激的な訓練になります。ある研究によると、字幕の先行表示と字幕の精度を比較した時に、前者が後者よりも内容理解の正確さを高める要因となるという結果が出ています(下郡他、2010年)。

 つまり、上手な字幕がタイムリーに表示されるより、下手な字幕でも先に表示されたほうが内容をより理解できるということです。字幕の先行と遅延表示、どちらが合うか試してみてはいかがでしょうか。

 本コラムで述べたAmazon Prime Video以外の配信サービスでも、同様の機能を有する言語学習アプリがあります。(例えば、NetflixにはLanguage Learning for Netflixなど)また複数の配信サービスで使用できるアプリもありますので、興味がおありでしたら環境に合うものを探してみてください。

【参考文献】

下郡信宏、池田朋男、関矢陽子:英語字幕による会議支援:字幕の制度と表示タイミングが理解に及ぼす影響, 情報処理学会研究報告, Vol. 2010-GN-75, No. 5, pp. 1-6, (2010).

Oxford, R. (1990). Language Learning Strategies: What Every Teacher Should Know. New York: Newbury House Publishers.

【注】

1.ストラテジーとは、レベッカ・オクスフォード(1990)が提唱する、言語学習効率向上のための直接的・間接的なコツである。例えば、直接的なストラテジーは、記憶を補強するのに連想法を使うなど。間接的なストラテジーは、仲間と励ましあいながら学習する、好きな俳優の作品を選びモチベーションを上げるなど。

A glimpse into modern life through    the work of Steve Cutts

Barry Kavanagh (Tohoku University)

Steve Cutts is an illustrator and animator from the UK. He can be described as a social media Banksy. Much like Banksy, his artwork is a satirical commentary on the excesses of society.

His work is inspired by vintage cartoons of the 1930’s and graphic novel art. His most notable animations that have been watched millions of times on YouTube include ‘Happiness’, ‘The Turning Point’ ’Man’ and ’Man 2020’.

These short animations have no dialogue but use a soundtrack that compliments a visual feast that conveys multiple messages in each frame. In this respect, the adage ‘A picture is worth a thousand words’ is very much applicable here. His animation ‘Happiness’ looks at how we have become a rat race consumed by materialism and are never satisfied with what we have. ‘The Turning Point’ examines a world where humans and animals have changed places and it is humans who are on the verge of extinction. The video is a damming comment on what mankind has done to its environment but from the perspective and position of animals. ‘Man’ follows similar themes and portrays 500.000 years of destruction that man has caused the world from his contempt of the environment and cruelty to animals that stems from viewing the world as something that is to be consumed.

His sequel, ‘Man 2020’ sees our protagonist in lockdown at home with a huge amount of toilet roll in the background. Animals outside are rejoicing in a festival of song and dance as man’s absence has meant that nature has had a chance to flourish. However, it ends with man leaving his house and killing a bug in the process. The animals are seen to quickly vanish in fear as man once again is back to his old bad habits after lockdown. This video is a satirical take on the recent events that have surrounded the COVID-19 pandemic and reminiscent of news stories that illustrated how the environment and nature thrived when we were all under lockdown or running out to buy toilet paper based on the spread of misinformation on social media.

I have used the animations of Steve Cutts in content-based lessons that have looked at global issues, consumerism, media literacy and SDGs. Students have found them intriguing and with the right amount of context and scaffolding these animations can complement content or theme-based classes. English lessons can be made around these animations and be used as a tool for critical thinking and debate.

His work can be found freely on YouTube or at his website

https://www.stevecutts.com

東日本支部便り 7月号    『未来世紀ブラジル』と“Voila!”

中村佐知子(東北大学)

何かが完成したとき、日本語で「じゃーん!」や「じゃじゃーん!」と言いますが、英語では“Voila!”と言います。英語と言ってもこの単語の響きからも推測できるようにフランス語の借用語です。この言葉がとても印象的に使われているのが、テリー・ギリアム監督のディストピアSFの傑作『未来世紀ブラジル』(Brazil, 1985)です。主人公サムの母親が若返り手術を受けるシーンで、担当医が手術完了とともに「どうだ!」と言わんばかりの得意顔で“Voila!”と言います。この映画を初めて見たとき「私もこんなふうに得意気に“Voila!”と言ってみたい…」と感じたことを覚えています(のちに実践しました)。映画は、「使える英語表現」にあふれた最高の教材です。

単語やフレーズが、どのような場面で使われているのか知りたい。こんなとき、とても役に立つのがYouGlishです。

YouGlish

https://youglish.com/

YouGlishで単語やフレーズを検索すれば、YouTube内の動画でどのように使われているのかがすぐ分かります。ためしに“voila”で検索すると、1572件の動画がヒットしました。詳しく見ていくと、“voila!”と言うとき、両手を広げるジェスチャーをする人がいることが分かります。ただ、全員がおおげさにジェスチャーつきでこの表現を使う、というわけでは決してなく、まったく強調せずに、とてもさりげなく使う人も見られます。TEDTalkなどのスピーチでもよく使用されているようです。

“no offense”「気を悪くしないでもらいたいのだけど」というフレーズも見てみましょう。988件のYouTube動画がヒットしました。こちらも詳しく見てみると、“no offense to 人”という形でよく使われています。そして、この表現の意味から当然推測されることではありますが、 “no offense”と言ったあとには苦言や批判が述べられています。興味深いのが、笑いが起こる場面がしばしば見られたということです。まじめなシチュエーションで使われることもあれば、ユーモア交じりに使われることもある表現だと言えそうです。

もうひとつ見てみます。“Are you with me”で検索すると2283件ヒットしました。この表現は、何かを説明している途中で「話についてきていますか?」と、理解を確認するために使われています。また“Are you with me so far?”「今のところ話についてきていますか?」や“Are you with me still?”「まだ話についてきていますか?」などの形でもよく使われることが分かります。プレゼンをする際にとても効果的なフレーズです。

言葉がどのように使われているか。個々の使用例を動画で詳細に観察することで、大きなデータで傾向を分析するだけでは把握できない、その言葉の特性が浮かび上がってきます。単語やフレーズの性格を踏まえた上で、会話でそれらをうまく使えたときの喜びは格別です。英語の一学習者としてこれからも英語を観察し、トライアル&エラーを繰り返しながら果敢に使っていきたい、こう考えています。

※YouGlishの検索件数はすべて2022年6月17日時点のものです。

助動詞 “may” から見えるアンの魅力(『ローマの休日』(Roman Holiday, 1953))

濱上桂菜(獨協大学)

2022年5月13日、『ローマの休日』の新しい吹替版がテレビで放送されました。映像と効果音・音楽はそのままで、次世代の声優たちが登場人物に新たな声を吹き込みました。以前の吹替版に馴染みのある方にとっては違和感があったかもしれません。しかし、新しい吹替版では、多くの人にとって聞き覚えのある声優さんが一人は見つかったかと思います。白黒映画を見たことがない人であっても、親しみを持って見ることができたのではないでしょうか。

この映画で英語の勉強になるのは、助動詞のmayです。mayの意味の一つとして、「許可」を思い出す人も多いでしょう。主人公の王女アンは次のように言っています。(以下例文の日本語訳は5月13日放送の吹き替え版です。)

・You may sit down.「さぁ お掛けになって。」

・You may call me Anya.「では こう呼んでください。アーニャと。」

これらの文中のmayは「許可」を意味します。しかも主語がyouですから、聞き手に対して許可を与えています。

ただし、このようにmayを使って聞き手に許可を与えるのは、今風に言うと上から目線の言い方です。封建制度下のような身分の違いが明らかな社会では用いられていましたが、現在社会では使われていません。たとえ1953年に制作された『ローマの休日』の頃であっても同様に、ずいぶん高圧的な上から目線の言い方です。確かにアンは王女ですから「許可」のmayを使う立場ではあります。しかし、しがない記者のアパートに押し込んで眠りこけていたパジャマ姿の来客が言うのですから、滑稽ですね。

聞き手に許可を与えるmayの使用は今日廃れましたが、聞き手に許可を求めるmayは今日も使われます。

・May I have some?「私にもください。」

上の文は、ジョーがお酒を飲んだときに、王女アンの言葉です。アンがお酒を貰う許可を求めているのです。このmayの使い方は一般的ですから、mayで笑うところではありません。(ただし、フラフラの状態でもなおアルコールを飲もうとするアンの姿に笑うところではあります。)

このように同じ「許可」を意味するmayであっても、You may …(聞き手に許可を与える表現)は高圧的すぎて今日使われませんが、May I … ?(聞き手に許可を求める表現)は今も使うことができます。

身分を隠してたった1日の「休日」を楽しむ王女アン。最初はmayを使うなどして王女らしさを隠せずにいるので滑稽です。いかにも王女らしいこのようなセリフは、この映画では重要な役割を果たしていると思いませんか? 最初に王女らしさが目に付くぶん、徐々に現れてくる少女としての自然体のアンに私達は強く惹かれていくように思うのです。

“Collections of Idiomatic Expressions on YouTube”

Ryan Spring (ATEM East, Tohoku University)

There is a YouTube channel called “As Easy As Pie.” It has a nice collection of various phrases and idiomatic expressions that appear in popular American and British TV shows. Each video contains an explanation of what the phrase or idiomatic expression means and then shows at least one clip from a television show where it is being used in context. Some video contain multiple examples. This channel is potentially useful for use either in the classroom (i.e., showing specific examples to students) or for guided study outside of the classroom. Students could also use the channel for self-study, as it includes definitions, explanations, and practical examples of the phrases and expressions in use. 
Here are the benefits and drawbacks to this particular channel:
Benefits:
1. Being a YouTube channel, you can search for specific phrases or expressions WITHIN the channel. Any videos will follow the same easy-to-use format. 2. There are a wide range of phrases and expressions.3. There are explanations, definitions, and practical examples created from authentic video materials 
Drawbacks:1. The channel has a limited number of phrases and expressions, so teachers may have to plan their lessons/quizzes/etc. around what exists on the channel.
2. There is no way to add your own
Overall, this can be a powerful tool either for encouraging students to study, or to provide easy to understand examples when one of the phrases or expressions that you want to teach appears within the channel. Here is the channel link:https://www.youtube.com/channel/UCfG86_GaWYrGZlj05TArkrg

An interesting future study could be to link this to corpus studies, or to create our own ATEM channel that would be based on the expressions and phrases that we think are important or that might supplement or compliment this channel.

『96時間』(Taken, 2008)における英語の「脅し文句」

小泉勇人(東京工業大学)

『96時間』(Taken, 2008)で役者リーアム・ニーソンが捲し立てる脅し文句を耳にして震え上がらない観客がいるでしょうか。『96時間』は、周りから心優しく無害だと思われていた人間の劇的な変貌を描いた傑作活劇だと言えましょう。中年男ブライアン・ミルズ(ニーソン)は離婚した後、溺愛する娘キムのパリ旅行をハラハラして見送ります。心配性の彼は、パリに到着し次第、彼が住むアメリカの自宅に電話をかけるようキムに頼みます。ところが、キムがパリのホテルからミルズに電話をかけたまさにその時、誘拐犯が侵入しキムを闇の売春組織の元へ連れ去ろうとするのです(原題がTakenなのはこれが由来)。キムが連れ去られた後、携帯を拾い上げた犯人の息遣いがミルズの耳に伝わります。ミルズがそこで取った行動は、1ミリも怯むことなく、退官した鬼のCIA工作員としての冷酷な脅し文句を誘拐犯に突きつけることだったのです:

Bryan Mills:

If you’re looking for ransom, I can tell you I don’t have money but what I do have are a very particular set of skills. Skills I have acquired over a very long career. Skills that make me a nightmare for people like you. If you let my daughter go now, that will be the end of it. I will not look for you, I will not pursue you. But if you don’t, I will look for you, I will find you and I will kill you. (参考YouTube動画:https://www.youtube.com/watch?v=jZOywn1qArI)

映画は時に強烈な「脅し文句」を教えてくれます。このわずか1分程で、ミルズは誘拐犯に自分の意思・能力・条件・宣告を誘拐犯の耳に叩き込むのです:

①身代金を払う余裕はない点(I don’t have money)

②誘拐犯を追い詰める能力がこちらにはある点(Skills that make me a nightmare for people like you)

③娘を返せば不問にする点(I will not look for you, I will not pursue you.)

④娘を返さないなら絶対に追い詰めて、殺すという揺るぎない決意(I will look for you, I will find you and I will kill you.)

この脚本術の骨子は、ミルズが何百回となく修羅場を乗り越えてきた人物であることを観客(と誘拐犯)に瞬時に理解させることにあります。強烈なのは①-③から続く④の宣告、話者の決意表明と、これから怒涛のように展開される鬼の追跡劇を予告する発言だと言えるでしょう。事実『96時間』は、優しい優しい好人物を絵に描いたような俳優リーアム・ニーソンが鬼と化し、愛娘を救出せんと拷問と破壊の限りを尽くしながらパリを激走する物語なのです。

 ところで本作は、ミルズを演じるリーアム・ニーソンの役者傾向が鮮やかに戯画化された映画でもあります。ニーソンが演じる役は、喜怒哀楽で言えば哀と怒の振り幅が異常に大きい傾向にあるのです。確かにニーソンと言えば『シンドラーのリスト』(Schindler’s List, 1993)でユダヤ人救出に命をかける静かなる男を演じたことでも、よく知られた名優です。『ラブ・アクチュアリー』(Love Actually, 2003)での、死別した妻の連れ子の世話を焼く優しい継父も記憶にあります。『スター・ウォーズ エピソード1/ ファントム・メナス』(Star Wars: Episode I – The Phantom Menace, 1999)にて弟子を導く雄大なジェダイを演じてもいました。

 一方、キレる役者芸もニーソンの強みだったに違いありません。『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』(Rob Roy, 1995)では静かに怒りをために貯めこんでついには爆発させるスコットランドの英雄を演じたのもニーソンです。サム・ライミ監督作『ダークマン』(Darkman, 1990)で、心根の優しい科学者が異常なまでの怒りを爆発させる難役を嬉々としてこなしていたのも、ニーソンです。(参考動画:景品のぬいぐるみをくれない意地悪な射的場の店員にキレるニーソン。https://www.youtube.com/watch?v=lbdeAhpIPhE&ab_channel=Movieclips)。つまりニーソンは研究を重ねてきていたのです、一見穏やかで実際にそうなのだけれと一度キレると止まらない男の役を・・・。その一つの到達点こそが他ならぬ『96時間』だったのではと、今になって見れば納得も行こうものです(振り返れば『シンドラーのリスト』ですら、ホロコーストに無関心だった男がやがてユダヤ人の救世主へと変貌していくという、「豹変する怒りのニーソン」的話型として読めてしまうから不思議なものです)。

 改めて『96時間』は、役者リーアム・ニーソン固有の十八番演技をこれでもかと生かした活劇であり、その口から発せられる「脅し文句」は、2000年代ジャンル映画史上において絶大なインパクトを残しました。この台詞に込められたニーソンの揺るがない意思を読み取り、音読し、暗唱しましょう。力強い英語です。あなたが何かと闘わなければならない時、心の中の鬼のニーソンがきっと背中を押してくれることでしょう。