家電機器と多機能な高校英語 ~学習指導要領における「英語」の変遷~


濵中 啓子(東京都立忍岡高等学校)


日本製家電機器はたいへん優秀である。第二次世界大戦後の復興時期、国産品は安かろう悪かろうと言われたこともあったが、高度経済成長期を迎えるまでに性能的に申し分のないものになった。実際、職場の英語科職員室で使用している電子レンジと冷蔵庫は20年、30年の使用に耐え、今も現役である。それらはいずれもいたって単純な作りをしていて、電子レンジは温める機能のみ。冷蔵庫は冷蔵と冷凍の2ドアタイプである。故障しない理由は、そのシンプルさにあるのだろう。


シンプルという言葉で思い出すのは、現行の文部科学省平成30(2018)年告示の高等学校学習指導要領(以下、平成30年要領)で定められている外国語(英語)の科目である。学年が上がるのに合わせて「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」と深化するが、「英語コミュニケーション(以下、英コミュ)」と「論理・表現(以下、論表)」の二種類のみである(専門学科は除く)。ここまでシンプルに科目数が少なかったことが過去にもあったのだろうか。疑問に思い、国立教育政策研究所教育研究情報データベースのサイトで過去の英語の科目について調べてみた。



高等学校学習指導要領における英語の科目の変遷(括弧内の数字は単位数) (https://erid.nier.go.jp/guideline.html)
昭和35年:英語A(9) 英語B(15)
昭和45年:初級英語(6) 英語A(9) 英語B(15) 英会話(3)
昭和53年:英語I(4) 英語Ⅱ(5) 英語ⅡA(3) 英語ⅡB(3) 英語ⅡC(3)
平成元年:英語I(4) 英語II(4) オーラルコミュニケーションA(2) オーラルコミュニケーションB(2) オーラルコミュ二ケーション(2) リーディング(4)ライティング(4)
平成11年:オーラル・コミュニケーションI(2) オーラル・コミュニケーションⅡ(4) 英語Ⅰ(3) 英語Ⅱ(4) リーディング(4) ライティング(4)
平成21年:コミュニケーション英語基礎 コミュニケーション英語Ⅰ コミュニケーション英語Ⅱ コミュニケーション英語Ⅲ 英語表現Ⅰ 英語表現Ⅱ 英語会話
平成30年(現行):英語コミュニケーションⅠ(3) 英語コミュニケーションⅡ(4) 英語コミュニケーションⅢ(4) 論理・表現Ⅰ(2) 論理・表現Ⅱ(2) 論理・表現Ⅲ(2)

以上の調査から、高校英語の科目が二種類のみというのは昭和35年要領と同様だと判明した。ただしそのシンプルさとは裏腹に、英コミュも論表も深化科目で、一つの科目で扱う内容は多種多様だ。英コミュでは、「聞く、読む、話す[やり取り]、話す[発表],書く」の五つの領域を、論表では、「話す[やり取り]、話す[発表]、書く」の三つの領域を扱うことになっている。家電に例えると、「英コミュ」ボタンを押すと五つの機能が、「論表」ボタンを押すと三つの機能が働くようなものか。その扱う量の多さをイメージし易くするために、学習指導要領の「外国語」部分の文字数を比較してみた。


学習指導要領「外国語」部分の文字数
昭和35年:  9,145字(そのうち約3000字はドイツ語とフランス語について)
平成30年: 21,983字

説明部分の単純比較で結論を出すのは多少乱暴であるが、高校英語が扱う内容は約60年で約3倍に増えていると言っても過言ではない。一方、授業に費やす時間は24単位から17単位に減っているのだから、どう考えても、高校英語というボタンに機能を詰め込み過ぎだ。

いくら多機能な電子レンジでも、トーストを焼きながら、ごはんの温めをすることはできない。また、時代が多機能を求めているからと言って、全ての生徒に多機能を求めるのは非現実的だ。日本製の家電や携帯電話が世界市場で優位に立てなかったのは、一つの製品に多機能を追求し過ぎたせいもあったはず。 ひとまず良し悪しは別としても、多機能であることを求められている高校英語。教師は何を教えるのか、どのタイミングでどう導入するのか、何をどのように評価するのか、それらの判断は、結局、教師一人ひとりに委ねられている。だから私は今、英語科職員室で何十年も重宝されてきた単機能の冷蔵庫や電子レンジを横目にしながら、4月からできる限り単純明快に英コミュや論表を教えられるよう、平成30年告示学習指導要領の完成年である2024年度の年間授業計画を立てている。