映画英語教育学会東日本支部2016年度 夏季例会のお知らせ
2016年5月15日(日曜)14:00~17:00
会場:麗澤大学東京研究センター
ATEM東日本支部・2016夏季例会
第一部 ATEM東支部セミナー:
映画をいかに英語教材化するか(14:00~15:00)
『アナ雪』ほか、映画の登場人物名をさかのぼる
吉田雅之 (早稲田大学)
無料ソフトAnkiと映画の場面を組み合わせたフラッシュカードの作り方
嘉来純一 (早稲田大学本庄高等学院)
<休憩15分間>
第二部 全国大会シンポジウムに向けて:
SF映画とヒューマニティ(15:15~17:00)
懐古趣味的スペースオペラ: 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
―ケビン・ベーコン主演作Footloose(1984)が引用される場面を中心に―
小泉勇人(早稲田大学文学研究科)
『ウォーリー』(2008)と遊びごころ
日影尚之 (麗澤大学)
SF映画のヒューマニティを言語学から考察する~談話分析の試み
大月敦子(専修大学)・原田知子(武蔵野音楽大学)
*問い合わせ:e-mail(ej-seminar@atem.org)
*事前申し込みの必要はありません。
*参加費無料 *例会終了後、懇親会を予定しています。
会場:麗澤大学東京研究センター
http://www.reitaku-u.ac.jp/daigaku/campus/campus01.html
東京都新宿区西新宿6-5-1新宿アイランドタワー4階 新宿駅西口より徒歩8分
『アナ雪』ほか、映画の登場人物名をさかのぼる
吉田雅之(早稲田大学)
人物名、すなわち First Names, Surnames に関する辞典はそれなりに存在し、本来の意味を調べることは可能となってはいるが、映画などフィクションに登場する人物名を、そのキャラクターを考慮しつつ解説した辞典は殆どないのではないだろうか。本発表では身近な映画を素材として、登場人物名の背景にあるイメージを原語までさかのぼりつつ考察し、「命名の妙」を感じ取っていきたい。
また日本人にとり身近な別の名前との意外な関係にも注目していきたい。たとえば『アナと雪の女王』 (Frozen) に出てくる Anna は英語圏で Ann, Anna, Anne, Annette, Annie, Nan, Nancy, Nanny などという variants を持っている。
イタリアやスペインなどにはアニータ(Anita)やアーニャ(A?a)というvariants もある。『赤毛のアン』 (Anne of Green Gables) で主人公が自分の名前はAnne であり、Ann は間違いであると主張する場面を想起すると、綴り字の -e 1文字であっても当事者にとってはおろそかにしてもらいたくない気持ちが、日本人名「斉藤」や「渡辺」などの漢字表記(異体字)にこだわる方と同様なのだな、と理解できる。さて、このAnna をさかのぼると
ヘブライ語の Hannah に行き着く。元来はHe (=God) has favored me. という意味を持っているので、「神の恵み」を親が意識して命名している点で、日本人の女性名「めぐみ」「恵子」、そして男性名「恵介」なども同様と言えよう。
映画『アナ雪』ではその両親がアナの幼いうちに死んでしまうだけに、親の思いが切なく感じられる。一方「神の恵み」はラテン語で gr?tia なので、それに基づく英語名 Grace も源が同じである。日本人の中では細川忠興の妻となった後で高山右近の影響で洗礼名「ガラシャ」を授かった明智光秀の次女「玉」が、当事のポルトガル人宣教師の発音をカナの形ではあるが伝えている(現代ポルトガル語では gra?a)。その他、類例を挙げながら、人物名を考察していきたい。
無料ソフトAnkiと映画の場面を組み合わせたフラッシュカードの作り方
嘉来純一(早稲田大学本庄高等学院)
従来のフラッシュカードといえば、例えば紙のカードの表面に日本語、裏面に英単語を書き、それを使って暗記をしていくものであった。
ただしそれだけでは、単語の発音、使われる文脈などを網羅的に学習することは不可能である。それらの問題を解消するためには、電子フラッシュカードAnkiを用いることが有効だと思われる。Ankiでは文字情報に加え、音声・映像などの電子媒体を貼り付けることが可能である。そのため、さまざまな情報が詰まった映画の場面を貼り付けることにより、映像・音声を含むフラッシュカードを作成することができ、より効果的な単語・例文・リスニング学習が期待できる。
今回は理論的なことよりも、実際の教材の作り方に焦点を置きます。以下2点の無料ソフトをあらかじめダウンロードし、PCをご持参いただけると分かりやすいと思います。
Anki (http://ankisrs.net/)
Bandicam (https://www.bandicam.com/jp/downloads/)
懐古趣味的スペースオペラGuardians of the Galaxy (2014)
―ケビン・ベーコン主演作Footloose(1984)が引用される場面を中心に―
小泉勇人(早稲田大学文学研究科)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(Guardians of the Galaxy, 2014)が極めてユニークかつ巧みな映画たりえているのは、相反する二つの要素があらゆる場面を通じて鬩ぎ合っていながら、演出・脚本・演技において絶妙なドラマツルギーの調和を保っている点にある。ジャンル映画としては、数々のアメコミ原作映画を成功させてきたマーベル社がCG技術のノウハウをつぎ込んだ最新鋭のSF冒険活劇、いわゆる「スペース・オペラ」にひとまずは位置づけることができるであろう。一方で、所々で70年代ポップスをBGMとして流す懐古主義的な演出を施している点は注目に値する。つまり、2000年代最新のモードを表面にまとっていながら、実質的には過去への憧憬が随所に込められている妙こそがこの映画の実体であると考えられる。またこの相反性に呼応するように、勧善懲悪的で比較的シンプルなはずの話型でありながら、台詞と演出を通じて構築されるユーモアによって自己解体されていく独特の映画文体も見逃すわけにはいかない。さらに、台詞そのものに目を向けてみればやはり同様のスタイルが貫かれていることがわかり、英語教材として抽出・作成すれば学生の興味を強く引きだす可能性がうかがえる。本セミナーでは、この映画独特の文体を理解するのに最適な場面を例示しつつ議論を進める。具体的には、ヒロインであるGamoraに“I’m a warrior, an assassin. I don’t dance”と言われた主人公Peter Quillがケビン・ベーコン主演作Footloose(1984)を引き合いに出す場面を取り上げる。ユーモラスな台詞を通じて英語に親しむという観点から、教材としての有用性を探りたい。
「『ウォーリー』(2008)と遊びごころ」
日影尚之(麗澤大学)
未来の地球で一人(一台)700年間もゴミを固めて積み上げ続けるロボットWall-Eは、その成果としてゴミの摩天楼を着々と築いている。人間が地球を脱出し“Buy ‘N’ Large” (BNL)社の宇宙クルーズ船AXIOMで暮らすようになってからもう長いようだ。Deidre M. Pike (2012) も示唆する通り、これは消費文化と環境破壊の行きつく末の地球を暗示しているのだろうが、このロボット自身に危機感や使命感はない。ロボットだが「感情」豊かで、ゴミの中から拾ったビデオでミュージカル映画Hello, Dolly! を鑑賞し、歌い、男女が手を繋ぐ場面に憧れ、地球探査ロボEVEに一目ぼれする。ルックスもパッとしない臆病者のこのロボは「彼女」を追いかけた結果、AXIOMにたどり着く。ロボットたちが指令通りに機能する秩序正しい世界に、悪気も使命感もないよそ者Wall-Eが侵入した結果、混乱と目覚め(epiphany)が起こる。BNL 社に飼い馴らされ、テクノロジーに支配されて生き延びる人類の姿は戯画化されている。チャップリンやキートンが好きだったというStanton監督の遊びごころ(ユーモアのセンス)は、宇宙空間でのダンスや『2001年宇宙の旅』のパロディーなど、いろいろな部分に発揮されている。
「SF映画のヒューマニティを言語学から考察する~談話分析の試み」
共同発表:大月敦子(専修大学)・原田知子(武蔵野音楽大学)
多くのSF映画において、人間が科学の無機質な世界の中で葛藤する姿が描かれている。そしてその葛藤はヒューマニティ(人間性)を問い、科学と対照的に描かれる。SF映画の中で、この科学とヒューマニティの対照こそが、一番の盛り上がりとなって観客を魅了する。そこで本発表は、この感動場面の談話分析を行い、SF映画のヒューマニティを言語学的視点から考察する。考察に際し、田窪行則(1994)に従って、言い淀み、感動詞、接続詞を、話し手の心的処理状態を示すモニター標識として扱い分析する。
“I.Robot”(2004)、“Island”(2005)、“Matrix”(1999)、“Minorityort”(2002)、“Star Wards ? Return of the Jedi”(1983)、“Gattaca”(1997) の人気6作品を選び分析を試みる。