2015年11月29日(日曜日)10:00 ~ 18:10
麗澤大学東京研究センター(西新宿・アイランドタワー4階)
10:00~10:20 | 総会・開会の辞 |
10:30~11:50 | 「映画と文学・文化研究」発表1「『グラン・トリノ』に描かれた珠玉の愛の姿」発表者:藤田 久美子 (白梅学園大学)発表2「Children of Men 『トゥモロー・ワールド』(2006)に見る難民のイメージ」
発表者: 日影 尚之 (麗澤大学) |
昼食 (70分間) 「授業にお薦めの映画」紹介 | |
13:00~14:20 | 特別講演 (90分)『オーセンティックなリスニング教材開発:データ収集からタスク作成まで』講演者 小林 敏彦国立大学法人 小樽商科大学大学院商学研究科
アントレプレナーシップ専攻(専門職大学院ビジネス スクール)教授 |
休憩 (10分間) | |
14:30~15:50 | 「映画英語教育研究」発表3「Lost in Translation (2003)の作品理解に欠かせない重要場面はどこか― 映画英語教育における場面選定と、その基準に関する考察 ―」発表者:小泉 勇人 (早稲田大学大学院)
発表4「映画を利用して分析するラグビー・ヘッドコーチ Eddie Jones氏の英語」 発表者:吉田 雅之 (早稲田大学) |
休憩 (10分間) | |
16:00~18:00 | 「映画と言語研究」発表5「会話における平叙疑問文の機能」発表者:原田 知子 (武蔵野音楽大学) 発表6「So you don’t read Runway?: How Declarative Questions Work」
発表者:渡邊 信 (麗澤大学) 発表7 「映画で学ぶ「行為解説」の進行相」 発表者:藤枝 善之(京都外国語大学・短期大学)
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18:00~18:10 | 閉会の辞 |
特別講演:13:00~14:20
映画英語教育学会(ATEM)第6回東日本支部大会(2015・11・29)
麗澤大学東京研究センター(西新宿・アイランドタワー4階)
研究発表1(10:30~11:10)
「『グラン・トリノ』に描かれた珠玉の愛の姿」
藤田久美子 (白梅学園大学・短期大学非常勤講師)
クリント・イーストウッド監督作品『グラン・トリノ』は、朝鮮戦争の従軍経験を持ち、かつてフォード社の組立工であった偏屈な老人が主人公である。人種偏見の持ち主であった彼は、隣人であるアジア人の若者との関わりを通して人間性を取り戻し、残された短い時間をこの若者とその姉のために使うことになる。そして、彼は、あることから窮地に陥ったこの姉と弟を救うため、彼らに最大の贈り物―自分の命―を贈る。本発表では、彼の偏屈な、閉鎖的な性格の原因であったと思われる朝鮮戦争での従軍経験を考え、その後の一種の心的障害(PTSD)が、アジア人の若者たちとの関わりによってどのように解決されていくのかを考えたいと思う。また、彼の最期の行為の意味を考え、彼の人生の意味について考えたい。
研究発表2(11:10~11:50)
「映画Children of Men 『トゥモロー・ワールド』(2006)に見る難民のイメージ」
日影尚之(麗澤大学)
映画Children of Men (邦題『トゥモロー・ワールド』)(2006)が描くのは、新生児誕生のニュースが18年間も聞かれない、テロや紛争が蔓延し、多くの国・地域が荒廃し、イギリスに押し寄せる難民(“fugees”)が容赦なく強制収容されるような荒涼とした世界である。名のついた登場人物のほとんどが死ぬが、出産して新生児とTomorrow号に乗る黒人女性Keeに前途を見る読みも可能ではある。本発表では、スラヴォイ・ジジェクらが指摘するように、この映画で重要な、名もなき社会的弱者としての難民の描き方を中心に考察したい。
研究発表3(14:30~15:10)
「Lost in Translation (2003)の作品理解に欠かせない重要場面はどこか
― 映画英語教育における場面選定と、その基準に関する考察 ―」
小泉 勇人(早稲大学文学研究科博士後期課程)
「『腑に落ちること』、すなわち知的発見を得るところにある」英語の授業 (山田 2005)を目指すとき、映画英語教育における場面選定は一つの課題であると言える。選定する場面によっては、「英語学習」に加えて「物語研究」としての側面が立ち上がる場合もあり、知的発見が多層的に見出される余地が発生するからである。つまり、「英語学習」と「物語を理解する醍醐味」が連動することによって、学習者側の「腑に落ちる感覚」がより促進されるのではないだろうか。場面選定の基準については、例えば天沼(1996)、そして小林(2003)によって既に整備されているように思われる。それらを参考としながらも、その上で、本発表では「作品理解に欠かせない要素を備えていること」を新たな選定基準として提案してみたい。具体的にはLost in Translation (2003) における特定の場面を取り挙げ、その選定理由を検証する。加えて、その場面で交わされる英語の台詞を学習する際に注意を要する点についても論じたい。
研究発表4(15:10~15:50)
「映画を利用して分析するラグビー・ヘッドコーチ Eddie Jones 氏の英語」
吉田雅之(早稲田大学)
先般のW杯で活躍したラグビー日本代表のヘッドコーチを務めていた Eddie Jones 氏の英語には、かなりのクセがある。彼の英語は3種類に分類されるオーストラリア英語の中で最もなまりの強い broad Australian なので、慣れていない人の耳には時として英語に聞こえない程である。英語学習者がこのような英語をすらすらと理解する必要はないのだが、TOEIC 受験時にも様々な英語を聴く機会のある現在、この英語をある程度まで把握しておくことは有用であろう。英語史の観点からは、約200年前にオーストラリアへ移民した英国人のうち、かなりの人数が囚人であったこと、また彼らの大部分が労働者階級であったために、Cockney accent が豪州英語の成立に大きな影響を与えたことを指摘することができる。本発表では映画を通してCockney accent, broad Australian の音韻面における類似性を確認した後、Jones 氏の英語と比較検討し、映画英語とニュース英語の併用が有効であることを指摘したい。
研究発表5(16:00~16:40)
「会話における平叙疑問文の機能」
原田知子(武蔵野音楽大学)
会話では、“You like it?”のように、平叙文の語順のまま上昇イントネーションで発音する「平叙疑問文」がよく使われる。yes-no疑問文を咄嗟に作れないレベルの英語学習者が会話で平叙疑問文を使うことがあるが、平叙疑問文はyes-no疑問文の代わりにいつでも使えるわけではなく、すでに話題になったことを確認する、驚きなど強い感情を表す、相手に依頼するなどの機能がある。また、二人称でよく使われる、応答にはyesが期待されることが多いなどの特徴を持つ。この発表では、映画のシナリオで実際の用例を分析し、特に教師の発話における平叙疑問文の様相を明らかにしたい。
研究発表6(16:40~17:20)
So you don’t read Runway?: How Declarative Questions Work
渡邊信(麗澤大学)
鈴木伊作(株式会社VSN、元麗澤大学大学院
いわゆるDeclarative Question (DQ、平叙疑問文)は口語英語の顕著な特徴である。本発表では、主にCarter & McCarthy (2006)およびHuddleston & Pullum (2002)の観察を基点とし、DQの働きを網羅的に考察する。DQの「傾き」、会話の含意、問い返し疑問文との相違点、非肯定表現anyの生起制限、”confidence markers”、 応答におけるyes–noなどを論ずる。またしばしばDQと混同される省略を伴う疑問文(e.g., You hungry?)の正体にも迫りたい。例文は主にThe Devil Wears Prada (『プラダを着た悪魔』)から引用する.
【参考文献】
Carter, R., & McCarthy, M. (2006). Cambridge grammar of English. Cambridge University Press.
Huddleston, R., & Pullum, G. K. (2002). The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press.
研究発表7(17:20~18:00)
映画で学ぶ「行為解説」の進行相
藤枝善之(京都外国語大学・短期大学)
本発表の目的は「行為解説」を表す進行形の基本概念、コア・イメージを考察し、既存の説に新たな選択肢を加えることである。毛利(1980)は、Austin(1975)の発話行為論で使われた定型式 “In saying x, I was doing y.”を利用して以下の結論を導き出している。すなわち、「英語では、行為AをBといいかえることによって<Aの内容を解説>するとき、Bの部分に進行形が用いられる」。例外扱いされることの多いこの用法は、進行形全体の枠組みの中でどう位置づけられるべきか。映画の用例を見ながら、「行為解説進行相」の本質に迫りたい。