中村 佐知子(東北大学 高度教養教育・学生支援機構 講師)
吉本新喜劇の桑原和男さんが亡くなりました。87歳の大往生。幼い頃に見ていた吉本新喜劇のスターの方々(島木譲二さん、チャーリー浜さん、井上竜夫さん、中山美保さん…)の訃報を、ここ数年、聞くことが多くなりました。当たり前のようにテレビで見てきた芸人さんが鬼籍に入られるのは、やはりとても寂しいものです。
桑原和男さんと言えば、玄関ギャグとでも言うべきこのギャグが有名です。
「ごめんください」
「どなたですか」
「〇〇〇〇〇です」
「お入りください」
「ありがとう」
(共演者全員コケる)
一連のやりとりを、桑原和男さんが全て一人で演じてしまうのが面白さのポイントです(ギャグを説明するのは非常に無粋で、なんだかムズムズしますが)。このように、分かり切ったお決まりの展開を愛でるのが、吉本新喜劇の典型的な楽しみ方です。
英語にも定番玄関ギャグが存在します。それがknock knock jokesです。その中でも最も有名なもののひとつを紹介します。
Mike: “Knock, knock!” (トントン)
Patty: “Who’s there?” (そこにいるのは誰?)
Mike: “Lettuce.”(レタス)
Patty: “Lettuce who?” (レタス・何さん?)
Mike: “Lettuce in. It’s cold out here.” (中に入れてよ。外は寒いんだ。)
いったい何が面白いのでしょうか。またしても、無粋ながらこのギャグを簡単に解説致します。
Mike: “Knock, knock!”
Patty: “Who’s there?”(“Knock, knock!”に対して必ず”Who’s there?”と聞き返すのがお決まり。)
Mike: “Lettuce.”
Patty: “Lettuce who?”(聞こえた語に”who?”をつけて聞き返すのがお決まり。Lettuceをファースト・ネームに見立て、ファミリー・ネームは何かを尋ねている。)
Mike: “Lettuce in. It’s cold out here.”(この部分がオチ。)
“Lettuce in.”と “Let us in.”がpun(ダジャレ)になっています。場面が玄関であること、そしてお決まりのフレーズが使われることから、桑原和男さんの「ごめんください」ギャグを妙に想起させます。
knock knock jokesが、映画やドラマで使われることもあります。『The Office』公式YouTubeチャンネルにアップされているワンシーンを見てみましょう。
Knock Knock – The Office US https://youtu.be/ez6Xdf_p7Yg @YouTubeより
Michael: Knock, knock!
Pam: Who’s there?
Michael: Buddha.
Pam: Buddha who?
Michael: Buddha this bread for me, won’t you?
Buddha(仏陀)とbutter(~にバターを塗る)がpun(ダジャレ)になっています。knock knock jokesという定番玄関ギャグがある、という背景知識があってこそ楽しめるシーンだと言えるでしょう。このknock knock jokesからはbutterの動詞用法も学ぶこともでき、映画やドラマは学びの宝庫であるとの認識をさらに深めさせてくれるシーンでもあります。
大人気ドラマ『The Big Bang Theory』のメインキャラクターの一人であるSheldonも、定番玄関ギャグの使い手です。
(knock, knock, knock) “Penny.”
(knock, knock, knock) “Penny.”
(knock, knock, knock) “Penny.”
アパートの向かいの部屋に住むPennyを訪ねる際、Sheldonはドアを3回ノックした後「Penny」と呼び、さらに必ずこれを3回繰り返す、というのがお決まりです。Sheldonの偏執的な性格がよく表れており、思わずにやりと笑ってしまうシーンです。
玄関は、コメディーの世界に生きる人を惹きつけて止まない磁場のような場所なのかもしれません。今回は、桑原和男さんの訃報に触れ、玄関ギャグについて考えてみました。