濱上桂菜(立命館大学嘱託講師)
2023年5月6日にチャールズ3世の戴冠式がありました。その様子は、英国公共放送BBCによって生放送で世界中に配信されました。また、式が終わった今も、世界各国の放送局によって配信されたユーチューブ動画を見ることができます。そういった意味では、70年前のエリザベス女王戴冠式よりも、世界の人々にとって近い戴冠式となったといえるでしょう。
エリザベス女王の戴冠式と異なる点は他にもあります。それは、映像がカラーであることです。また、式を飾る草花にも異なる特徴がありました。このような映像の違いと草花の違いは、案外深く関わりあっているようです。そして、式に使われた草花は、面白いことに、その時の社会を反映しているようにも思えます。今回は、2つの戴冠式でウェストミンスター寺院を彩った草花から見る映像と社会についてお話します。
エリザベス女王の戴冠式で記録に残っている装飾草花は、女王が手にしていたブーケです。ブーケには、4種類の白い花があしらわれていました。写真を見てわかるように(参考URL (1))、白黒の世界の女王の手に白色の花が美しく浮かび上がっています。もしここで赤色や黄色の花を選んでいれば、これほど鮮明に美しく花が映ることはなかっ
たでしょう。当時の映像にいかに映えるかを考慮して、白色の花が選ばれたように思えてなりません。
また、4種類の白い花(ランとスズラン、ジャスミン、ラン、カーネーション)は、それ
ぞれ、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドとマン島から摘み取
ったものでした。つまり、当時の戴冠式は、大英国とその地域の結束を強く意識して行わ
れたといえます。
一方で、今回のチャールズ国王の戴冠式では、(ブーケこそなかったものの)祭壇、無名戦士の墓、寺院の出入口などに、様々な色の草花が飾られました(参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=_exIPOs9DLM)。映像では、ワインレッド、紫、赤褐色、アース系の色の草花が時折映り込みます。(祭壇の草花は2:40、無名戦士の墓の草
花は4:57、寺院出入口のトピアリーは7:23に確認できます。)もし70年前の白黒のカメラで映したら、草花は黒く映ってしまい、背景と同化していたかもしれません。今回の草花の色は決して華美ではありません。しかし、ウェストミンスター寺院の石壁や金の装飾と一緒になって、歴史の重みを感じさせるような深みのある色合いでした。
また、チャールズ国王が環境保護に取り組んでいることから、草花の装飾においても地球環境やサステナビリティが意識されていました(参考URL (2))。装飾のためにプラスチックは一切使われませんでした(あの生花用吸水スポンジでさえ、です!)。そして式の後にはブーケになって、高齢者施設やホスピスなどに送られ、再利用されたとのことです。
このように、戴冠式に飾られた草花からは、映像のあり方と私たちの社会が改めて明らかになります。次の戴冠式を迎えるときは、私達はどのような映像を受け取るのでしょうか。もしかしたら、VRとして配信され、参列者であるかのように体験できるようになっているかもしれません。そして、その映像には、どのような草花が映り込み、それは未来のどんな社会を反映しているのでしょうか。楽しみに待っていようと思います。
参考URL (1):https://www.housebeautiful.com/uk/garden/plants/a42778137/king-charles-coronation-flowers/
参考URL (2):https://www.harpersbazaar.com/celebrity/latest/a43796956/flowers-queen-elizabeth-prince-philip-king-
charles-coronation-2023/
参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=_exIPOs9DLM