竹原文代 (神田外語学院)
1990年頃の話です。大学の必修英語の授業で先生から突然『映画を観てメタファーを学びます』と言われ、単に映画を楽しむのではなく意識的にメタファーを探しながら観るという経験を初めてしました。なぜ必修英語で映画を使うのか、二十歳そこそこの未熟者だった私にはテキストを使わない授業があまりに斬新で少し戸惑いを覚えました。さらに、その映画がイタリア映画だったこともあり(英語字幕でしたが)、戸惑いは次第に不信感へと変わりかけました。
教える立場になり思うのは、先生は単に教科書の内容を口頭で説明するのではなく学生の興味を引きながら知識を記憶に定着させる方法を模索していたのではないか、ということです。必要な情報や定義はテキストに書いてありますが、それを単なる試験対策ではなく一生の財産として記憶に落とし込むことこそが教える側の腕の見せどころです。しかし、『これから知識を定着させるために…』などと前置きしてしまえば、まるでマジックの種明かしをするようなもの。ワクワクやドキドキがなくなり印象にも残らなかったでしょう。
その先生が男性だったことは覚えていますが、名前も顔も思い出せません。しかしながら映画を使ってメタファーを教わった授業のインパクトが30年以上経った今でも蘇るという点でその授業は大成功だったと言えます。
授業で使用した映画は1988年公開の『ニュー・シネマ・パラダイス』(Nuovo Cinema Paradiso)でした。ご覧になったことのない方も、エンニオ・モリコーネが作曲した劇中曲を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
この映画を観たことのない方、または昔観たことがあるけど見返していない方へ、少し脱線しますがまた観たくなる(かもしれない)情報を共有します。
① 劇場版ではなく完全版をお勧めします。この映画は、少年期・青年期・成人期と一人の男性の人生を描いています。しかし劇場版では、成人期の重要なシーンがカットされており、大切な人との再会が描かれていません。
② メタファーが至る所にあります。キーワードは『マリア像』『鐘』『広場(と犬)』『悪天候(不吉な予兆ではなく、効果的に心情を表しています)』、そして『ほつれた毛糸』です。
話を戻しましょう。
皆さん、ご自身の学生生活を振り返って、思い出せる授業はいくつありますか? 印象に残っている授業で一番古い記憶はいつのものでしょうか? それはどんな授業でしたか?
私はこの授業の他にもいくつか忘れられない授業がありますが、共通するのは五感に強く訴えかけるものがあったこと、そして感情が大きく揺さぶられたことです。
映画や動画を授業に活用するのは、こうした点で非常に有効だと実感しています。どのように使ったら効果的か、タイミングやさじ加減をどうするか。より良い授業を目指して、これからも試行錯誤し続けたいと思います。