大月敦子(専修大学)
アフタヌーンティーは、夕食の前の午後のひと時に紅茶と共にサンドウィッチ、スコーン、ケーキなどを食べる英国上流階級の人々の習慣であるが、もともとは夕食の時間帯に観劇、オペラ鑑賞、パーティーがあったため、その前に軽くお腹を満たすための軽食として始まったものだ。菓子やサンドウィッチが2段、3段に重ねたティースタンドに載せられて運ばれる。ヒッチコック監督の映画『レベッカ』Rebecca(1940)の中で、ジョーン・フォンテン演じる「わたし」が窓際のソファーに座っているときに、メイドが紅茶の次に運んでくるのが、このティースタンドである。アフタヌーンティーはダイニングではなく、ラウンジでソファーに座って食べるのが正式だ。 近年、日本でもこのアフタヌーンティーが人気らしく、提供するレストランやホテルが増えているようだ。優雅な気分で美味しく食事ができる、ヴィクトリア朝時代の文化遺産だ。一度くらい経験してみたいものだが、働かずして贅沢な生活をするイギリス上流階級の人々の遺産でもある。
TVドラマ『アンという名の少女』 ANNE with an‟E”(2019)では、カナダ開拓時代の興味深い料理を見ることができる。主人公のアンやマリラ達が作る朝食、昼のお弁当、夕食、クリスマスディナー等、ほとんどの食材が自給自足によるものである。台所の流し台の脇には井戸があり水を汲む。また収穫したベリーやプラムから作った自家製ジャムやクッキーを、友人や隣人たちにおすそ分けをする。そしてその友人や隣人たちが病気になれば、行って食事を作る。ひと昔前の日本でも似たような光景があったと思うが、開拓者同士の深い絆を物語る。また興味深い習慣として、学校に通う生徒達が、持参した水筒を校庭の脇の冷たい湧き水に浸す。さらに蜂蜜が傷薬に利用できることをネイティブカナディアンから教わり、ギルバートが医療を学ぶきっかけとなる。食事や食物の場面から開拓時代の人々の生活を垣間見ることができる。
次にアメリカの代表的料理として日本でも馴染みのフライドチキンについて、よく分かる映画『ヘルプ』The Help(2011)がある。この作品は公民権法制定(1964)直前のミシシッピー州ジャクソンを舞台とした、アフリカ系アメリカ人女性達がヘルプ(メイド)として働き差別と闘った話だ。そもそもフライドチキンは、メイドたちが、それまで捨てられていた鶏の手羽先や内臓等の部位を味付けし、油で揚げて食べたのが始まりという。この映画の中でヘルプの一人ミリが、フライドチキンはクリスコ(Crisco)というショートニング(豚の油)で揚げるのが定番で、‟The most important invention since they put mayonnaise in a jar.”と言う。そしてこのクリスコで揚げたフライドチキンがミリの子供達の食卓に並ぶ。現代のテキサスを舞台とした映画『リトル・ミス・サンシャイン』Little Miss Sunshine(2006)でも、少女オリーヴの母親が夕食にフライドチキンを箱ごとテーブルの上にドンと置く。それに対して少女の祖父が「また今日もフライドチキンかよ!」と怒鳴り散らす。だが結局のところ一家は美味しそうに食べる。かつてはメイドたちが自分たちのためにクリスコで揚げたフライドチキンが、今では広くアメリカ社会に根付いていることがわかる。
最近の映画やTVドラマの中には必ずと言っていいほど食事の場面が映し出され、時には登場人物たちが食べている料理の中身や料理法まで詳しく描かれる。人々の食に対する興味の高まりが背景にあるのだろう。それぞれの時代や地域の興味深い料理を映像から見ることができ、さらにそこから文化を知ることができる。おかげで映画やTVドラマを観る楽しみが増え、異文化を知ることができ嬉しい限りである。
参考資料
『レベッカ』Rebecca(1940).株式会社オルスタックソフト販売 『アンという名の少女』 ANNE with an‟E”(2019).NHKエンタープライズ 『へルプ』The Help(2011).ウォルトディズニー・スタジオ・ジャパン 『リトル・ミス・サンシャイン』Little Miss Sunshine(2006) .20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン株式会社