第10回東日本支部大会プログラム

日時:2019年12月15日(日)

場所:早稲田大学3号館 304教室

 

開会の辞10:25

 

第1発表10:30-11:00

タイトル:日本語と英語の視点の違い—ラブソングの表現から見えてくるもの—

発表者:関口美緒(筑波大学・メリーランド大学グローバルキャンパス)

発表概要:

日本語と英語は、言語間の距離があり、習得が困難であると言われている*。その要因の一つが、文化的差異である。特に、中級レベルでは、「話者の視点」の相違から、表現が難しくなってくる。鍋島(2016)は、英語の視点を「主観的把握」とし、日本語の視点を「客観的把握」として両者の視点の相違について言及している。

発表者は、学習者に言語間の視点の差異を認識させるため、またその差異に追随する言語表現・言語アプローチを理解させるために、日米の歌による愛の表現を用いた授業を行った。授業ではyoutubeを使い、歌詞を分析し、愛のメッセージの表現の違いを話しあった。また、夏目漱石の愛の表現や川端康成の「雪国」の冒頭などもインターネットで調べ、分析した。

このようにメディアからは視覚からも聴覚からも多くの情報を得ることができる。特に「視点」というテーマでは、ミュージックビデオという教材が学習者の理解を容易にさせていると思われる。

参考資料

*’Language Difficulty Ranking’ Foreign Service Institute (U.S.gov.) https://www.effectivelanguagelearning.com/language-guide/language-difficulty

鍋島弘治郎(2016)「日本語の発想―日本的思考を支える対立軸」『2016年度春季大会予稿集』日本語学会pp.197-204

 

第2発表11:05-11:35

タイトル:マルチメディアツールによる客観的な発音評価:実践と実証

発表者:スプリング・ライアン(東北大学)

発表概要:

本研究は無料・自動・客観的に発音を評価する方法を紹介し、信頼性を実証する。日本人英語学習者50人にスピーキングテストを受けてもらい、発話を録音した。また、被験者に各自の録音ファイルに聞いて、自分が言ったことを筆記してもらった。筆記文章が正解であることを確認した上に、オンラインマルチメディアツールを利用し、自動筆記文章を作成し、被験者の文章と比較し、自動筆記文章の何パーセントが正しかったか計算した(客観的評価)。また、英語母語話者4人に各録音ファイルを聞いてもらい、各被験者の発音を主観的に評価してもらった。母語話者の総合評価と客観的評価をスピアマンの順位相関係テストで検証した結果、非常に強い関連性があった(r2=.624, p<0.001)。また、主観的な評価の五分位点(quintile)をANOVAで比較したところ、客観的評価に5パーセントぐらいの差がないと、母語話者の主観的な評価にあまり影響を及ぼさないことが分かった。

 

11:40-12:00 支部総会

12:00-13:00 昼休み

 

第3発表13:00-13:30

タイトル:一講義90分間にオーセンティックな素材から市販教材に触れる5段階式英語リスニング授業の実践

発表者:小林敏彦(国立大学法人小樽商科大学)

発表概要:

日本語母語話者の英語学習の最大の難点はリスニングであると考える。英語と比べて日本語の音素の数は極端に少ないために、これは宿命的な問題と言えなくもない。リスニングは音声認識と内容理解の2つのフェーズから成るが、内容理解に重点が置かれ音声認識が軽視した教材や教授法が主流を占めている。また教材の多くはそのジャンルが限定的であり、実際学習者が日常生活および海外旅行等で耳にする洋楽、洋画、テレビ、ラジオ、ネット動画、館内放送、機内放送、生の会話等の多様な英語の聞き取りの対策になっていない。特に、英語の天気予報や事件の報道など授業中に聞いたことがない学習者が大半を占めている。

本発表では音声認識の重要性を強調し、オーセンティックな洋楽、洋画、ニュース、及び学習者用に調整された市販教材の対話、市販教材の独話の5つの異なる素材を活用し、英語音声のIdentification(特定)、Discrimination(区別)、Dictation (書取)のタスクを主体とした授業実践を報告する。発表では実際に私が今学期使用している授業の15回分のリスニングシートを配布させていただく予定である。

 

第4発表13:35-14:05

タイトル:授業実践報告:映画活用アクティブラーニング――『グリーンマイル』と『ガン・ホー』を中心に――」

発表者:赤尾千波(富山大学人文学部)

発表概要:

映画を活用した授業は一般に、受講生のモチベーションを高めやすい一方、準備に相応の時間と労力がかかる、という難点が指摘される。2018、19年度実施の学部専門科目「英米言語文化講読Ⅱ」では、アクティブラーニングと受講生によるプレゼンを取り入れることで改良を図った。「映画を活用して異文化理解と英語学習」を狙いとするこの授業は、映画に登場するマイノリティの表象についての講義と、『グリーンマイル』と『ガン・ホー』(図書館にDVD所蔵)を視聴しての受講生プレゼンにより構成される。加えて、映画の会話の聴解とシャドウイング、役立つ表現を抽出し会話スキットを作る等、受講生自らが工夫して聴解・会話能力を伸ばすことも課題とした。プレゼンと期末論文のうちどちらか一つを選ぶことができるが、2018、19年度ともに、全受講生がプレゼンを行った。本発表では実際の配布資料を見ながら、その実践を振り返る。

 

第5発表14:10-14:40

タイトル:映像メディア英語に見る英和辞書開発の課題

発表者:山本五郎(法政大学)

発表概要

コーパス準拠のEFL/ESL辞書の開発においては,見出し語の語彙レベルの設定や各見出し語の用例の選定等を大規模コーパスとコンコーダンサの各種機能に基づいて行うため,安定した信頼性の高い記述が得られる反面,辞書の個性を出しにくいという問題がある。本発表では,発表者が執筆者・校閲者として参画した新版の英和辞書における競争力のある内容を盛り込むための工夫に焦点を当て,新版で実際にに新規採用した内容について提示し,複数のメジャーなEFL/ESL辞書と比較しながらその独自性や利点を検証する。また,映像メディア英語として英語TVドラマであるBreaking Bad (Season 2, Down)やHouse of Cards (1st Season, Chapter 8)の会話データを取り上げ,今後の英和辞書の開発で取り込みが可能な要素について考察する。

 

14:40-15:00 コーヒー・ブレイク

 

第6発表15:00-15:30

タイトル:映画と集合で解く英語の冠詞

発表者:藤枝善之(京都外国語大学・短期大学)

発表概要:

英語の定冠詞について映画の用例を検証すると、一般に知られている理論と矛盾する例が出てくる。例えば、『麗しのサブリナ』(1954)に出てくる台詞、

VOCALIST: I’m like a flame dying out in the rain.

のrainは、特定の対象でも旧情報の名詞でもない。

本発表では、従来の理論で説明できなかった定冠詞の用例をRussel (1918)の理論から発展させた集合概念で説明できるかどうかを検証する。さらに、集合概念を定冠詞、不定冠詞、ゼロ冠詞複数形にも応用して、その有効性を確認する。

 

第7発表15:35-16:05

タイトル:19 世紀英国社会改良運動へのマルクス主義の影響を考察する〜『マルクス・エンゲル

ス』(2017 年)を通して

発表者:河野弘美(京都外国語大学・短期大学)

発表概要:

19世紀英国社会は貧困の差と人口増加が深刻な国家問題になった時代である。工場労働者は長時間に及ぶ過酷な労働と引き替えに経営者に富をもたらし、ブルジョワと呼ばれる経営者は競争市場で利益を得るため労働対価を縮小していった。プロレリアートの労働者階級と人権を無視された貧困層の劣悪な生活環境はカール・マルクス(1818―1883)とフレデリック・エンゲルス(1820―1895)によりストップがかかる。彼らの思想は、『イギリスにおける労働者階級の状態』(1845)や『共産党宣言』(1848)等に凝縮され、階級制度の廃止、労働者の開放、自由で平等な共同体社会を目指し英国に広まっていく。マルクスとエンゲルスの思想は複雑である。又、思想的背景を理解するのには困難を伴う。そのため、本研究発表では、彼らの思想と社会改良への活動と影響を『マルクス・エンゲルス』(2017)を活用しながら読み取り、マルクス主義理解へのテキストとして利用する事を提案していく。

 

第8発表16:10-16:40

タイトル:映画『メッセージ』(Arrival, 2016)に見る人生の選択

発表者:日影尚之(麗澤大学)

発表概要:悲壮な弦楽曲にオーバーラップする主人公の語りで始まる映画『メッセージ』(Arrival, 2016)では、言語学者Louise Banksがエイリアン(heptapod)たちの言語(外国語)を謙虚に学ぶことで時間認識を複眼化し、彼らのくれたメッセージに気づくことで人類を戦争の危機から救う。Hannahと名づけられた娘のイメージを核として現在、過去、未来のビジョンが交錯するLouiseの時間認識の広がりは、我々の固定観念に対するメッセージでもあり、heptapodたちの表意文字の真意を理解しようと奮闘するLouiseの姿は、一人の人間(女性および母親)として、病死するらしいことを知っていても自分の娘を産み育てる選択をする、その生き方を考える物語でもある。冒頭と同じ曲を背景にした最終盤の語り “Despite knowing the journey and where it leads, I embrace it, and welcome every moment of it.”は、Everett Hamner (2017)が示唆するように、ゲノム研究の進展により自分の未来がある程度の確率で予想できる時代を生きる我々が直面する選択やその意味を考えるヒントになるのかもしれない。

 

閉会の辞 16:45

懇親会 (近隣の店にて 予定)