支部プロジェクト「東日本支部便り(仮称)」掲載のお知らせと2022年4月号コラム

当「東日本支部便り(仮称)」は東日本支部会員を中心に、英語教育に携わる教員や関係者が役立つ情報に関した話題について、定期的に投稿を進めていく支部プロジェクトです。現在のところ東日本支部会員によるプロジェクトではありますが、原稿は幅広く募集しております。ゆくゆくは他支部の会員、また他にも縁のある方を招いての投稿も計画しております。内容の自由度は高く、アカデミズムの追求というよりも、会員の研究と情報交換提供、自身の関心を示す場として活用いただけましたら幸いです。

2022年4月号】

『96時間』(Taken, 2008)における英語の「脅し文句」

小泉勇人(ATEM東日本支部、東京工業大学)

『96時間』(Taken, 2008)で役者リーアム・ニーソンが捲し立てる脅し文句を耳にして震え上がらない観客がいるでしょうか。『96時間』は、周りから心優しく無害だと思われていた人間の劇的な変貌を描いた傑作活劇だと言えましょう。中年男ブライアン・ミルズ(ニーソン)は離婚した後、溺愛する娘キムのパリ旅行をハラハラして見送ります。心配性の彼は、パリに到着し次第、彼が住むアメリカの自宅に電話をかけるようキムに頼みます。ところが、キムがパリのホテルからミルズに電話をかけたまさにその時、誘拐犯が侵入しキムを闇の売春組織の元へ連れ去ろうとするのです(原題がTakenなのはこれが由来)。キムが連れ去られた後、携帯を拾い上げた犯人の息遣いがミルズの耳に伝わります。ミルズがそこで取った行動は、1ミリも怯むことなく、退官した鬼のCIA工作員としての冷酷な脅し文句を誘拐犯に突きつけることだったのです:

Bryan Mills:

If you’re looking for ransom, I can tell you I don’t have money but what I do have are a very particular set of skills. Skills I have acquired over a very long career. Skills that make me a nightmare for people like you. If you let my daughter go now, that will be the end of it. I will not look for you, I will not pursue you. But if you don’t, I will look for you, I will find you and I will kill you. (参考YouTube動画:https://www.youtube.com/watch?v=jZOywn1qArI)

映画は時に強烈な「脅し文句」を教えてくれます。このわずか1分程で、ミルズは誘拐犯に自分の意思・能力・条件・宣告を誘拐犯の耳に叩き込むのです:

①身代金を払う余裕はない点(I don’t have money)

②誘拐犯を追い詰める能力がこちらにはある点(Skills that make me a nightmare for people like you)

③娘を返せば不問にする点(I will not look for you, I will not pursue you.)

④娘を返さないなら絶対に追い詰めて、殺すという揺るぎない決意(I will look for you, I will find you and I will kill you.)

この脚本術の骨子は、ミルズが何百回となく修羅場を乗り越えてきた人物であることを観客(と誘拐犯)に瞬時に理解させることにあります。強烈なのは①-③から続く④の宣告、話者の決意表明と、これから怒涛のように展開される鬼の追跡劇を予告する発言だと言えるでしょう。事実『96時間』は、優しい優しい好人物を絵に描いたような俳優リーアム・ニーソンが鬼と化し、愛娘を救出せんと拷問と破壊の限りを尽くしながらパリを激走する物語なのです。

 ところで本作は、ミルズを演じるリーアム・ニーソンの役者傾向が鮮やかに戯画化された映画でもあります。ニーソンが演じる役は、喜怒哀楽で言えば哀と怒の振り幅が異常に大きい傾向にあるのです。確かにニーソンと言えば『シンドラーのリスト』(Schindler’s List, 1993)でユダヤ人救出に命をかける静かなる男を演じたことでも、よく知られた名優です。『ラブ・アクチュアリー』(Love Actually, 2003)での、死別した妻の連れ子の世話を焼く優しい継父も記憶にあります。『スター・ウォーズ エピソード1/ ファントム・メナス』(Star Wars: Episode I – The Phantom Menace, 1999)にて弟子を導く雄大なジェダイを演じてもいました。

 一方、キレる役者芸もニーソンの強みだったに違いありません。『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』(Rob Roy, 1995)では静かに怒りをために貯めこんでついには爆発させるスコットランドの英雄を演じたのもニーソンです。サム・ライミ監督作『ダークマン』(Darkman, 1990)で、心根の優しい科学者が異常なまでの怒りを爆発させる難役を嬉々としてこなしていたのも、ニーソンです。(参考動画:景品のぬいぐるみをくれない意地悪な射的場の店員にキレるニーソン。https://www.youtube.com/watch?v=lbdeAhpIPhE&ab_channel=Movieclips)。つまりニーソンは研究を重ねてきていたのです、一見穏やかで実際にそうなのだけれと一度キレると止まらない男の役を・・・。その一つの到達点こそが他ならぬ『96時間』だったのではと、今になって見れば納得も行こうものです(振り返れば『シンドラーのリスト』ですら、ホロコーストに無関心だった男がやがてユダヤ人の救世主へと変貌していくという、「豹変する怒りのニーソン」的話型として読めてしまうから不思議なものです)。

 改めて『96時間』は、役者リーアム・ニーソン固有の十八番演技をこれでもかと生かした活劇であり、その口から発せられる「脅し文句」は、2000年代ジャンル映画史上において絶大なインパクトを残しました。この台詞に込められたニーソンの揺るがない意思を読み取り、音読し、暗唱しましょう。力強い英語です。あなたが何かと闘わなければならない時、心の中の鬼のニーソンがきっと背中を押してくれることでしょう。