タイトル:映画とテストにおけるSoXと微変異種SoXP
投稿者:倉田 誠(京都外国語大学)
Speaking of X(以後SoX)という談話辞に関する議論は、言語学会でもSoXからSoWやSoZと様々な変異種にまで及んでいますが、コアとなる簡便な意味機能については『ウィズダム英和辞典』の3版と4版が「先行文脈の内容に関連させて新しい話題を導入する」と記載してますし、学習英和辞典としてはかなり踏み込んだ他の言語情報と文例を提示しています。
本稿はSoXとSoXPと便宜上呼んでいる新たな微変異種を映画のセリフとTOEICと入試問題で考察します。SoXP のPは多義性(polysemy)を表す変数で、先行文脈のXと当該文のXの意味に変化があることがポイントです。まずはSoXの例を考察しますが、下記の(1)の海外ドラマの例では娘のJulieが父親のKarlに対して、好きな女性には、ママ(前妻)と私とパパの今の恋人のEdieがいることを伝えます。その瞬間、KarlはSoXを使って「Edieにプロポーズしたぞ」と情報を展開します。言うまでもなく、SoXの関連語であるEdieには何の意味的変化はありません。
(1) Julie: You mean, two of your three favorite ladies. You know, when you add in Edie.
Karl: Right! Of course. And speaking of Edie, I have some big news. I finally did it. I popped the question. <00:05:51> (Desperate Housewives, Season 2, Episode 18, 2006)
下記の(2)はTOEICのSoXの例です。Xで関連させている語句は下線部で示しているthe rosterであり、新しい話題を導入していますが、関連語句の意味に変化はありません。rosterの話題を深掘りするように新しい話題に展開していますので、その部分の情報は情報価値が高くなる可能性が高くなり、#85の設問で問われています。
(2) …However, now the storage room is a mess and needs to be cleaned up―we have a lot of empty boxes and packaging in there. I’ve updated the duty roster with this assignment. And speaking of the roster, I know some of you are planning on being away soon for vacation. Please make sure I have your time-off request forms by the end of the week.(局所的和訳:この割り当てに関して業務担当表を更新しました。そうそう担当表と言えば、何名かの方は間もなく休暇のために不在にするつもりであることは承知しています)(公式TOEIC Listening & Reading問題集6 Test 1 Part 4 #83-85)
次に変異種のSoXPはXが指す語句の多義性を扱うので難易度は上がります。(3)の関連語句はmarriageですが、Chuckがフェデックス社の技術とシステム管理の「融合」と比ゆ的に言及しているのですが、Morganは原義の「結婚」の意味で見事に姪のKellyとの結婚の話に引き込むという「我田引水」的な会話操作を行います。
(3) Chuck: It’s a perfect marriage between technology and systems management.
Morgan: Speaking of marriage, Chuck, when are you gonna make an honest woman out of Kelly? <00:15:33>『キャスト・アウェイ』(Cast Away , 2000)
下記の(4)もSoXPの例ですが、ここで関連語句となるのは、cash in one’s chipsという表現の多義です。Oxford Idioms Dictionary for learners of English (Second Edition)によると、1 finish a gambling game, 2 (slang) stop what you are doing and leave, 3 (slang) dieという3種類の多義がありますが、このシーンでは1と3の語義が色濃く使われています。賭けポーカーでSusanが「細かいお金がなければ、(cash in my chips)換金してお開きにできないわよ」と言い、それに対してLucyが「(cashing in your chips)死ぬといえば、Eliのお葬式はいつ?」と展開します。実は13話の冒頭で近所のイーライさんが大工作業中に急死しています。
(4) Susan: Hey, Gaby, did you remember to get change? ‘Cause when I cash in my chips, I don’t want to hear you say, “all I’ve got is 50s.”
Lucy: Speaking of cashing in your chips, anyone know when Eli’s funeral is? <00:03:33>
Bree: Oh, I think it’s Saturday. (Desperate Housewives, Season 5, Episode 13, 2009)
(5)は入試問題のSoXPの例です。里佳子さんが使うheatの多義が関連のポイントとなります。最初のheatは「暑さ」を意味しますが、SoXPの後のheatは「熱さ⇒わくわくするようなこと」という意味になり、「晩御飯を食べに行こう」とつながります。
(5) Rikako: You’re right! It is hard to study in this heat. Speaking of the heat, do you have any dinner plans tomorrow?
Melissa: No. My exam ends at five-thirty and I don’t have any plans after that. (弘前大学, 2013)
このようにSoXPは関連語の多義が大きく関係しており、まさに計算の入った映画のセリフならではという用法になりますが、このレベルの英語を使いこなすには相当の努力が必要となりますね。SoWやSoZという変異種についても書きたかったのですが、次回の「映像メディアと英語」の拙稿に譲りたいと思います。言語現象の変異種を整理するのは楽しいものですが、2022年こそCOVID-19の変異種は終息してくれることを切に望みます。