メディアでひもとくspeaking of Xとspeaking of Wとspeaking of Z

タイトル:メディアでひもとくspeaking of Xとspeaking of Wとspeaking of Z
投稿者:倉田 誠(京都外国語大学)

ちょうど一年前の2022年1月の「映像メディアと英語」で、speaking of X (SoX)について映画やTOEICや入試問題からの用例を紹介しました。映画やドラマなどの話の展開の速い会話では、Xの部分に多義性をうまく使って、全く別の話題に話をすり替えるという「我田引水」的な会話の荒業も可能であることにも触れ、それを便宜上SoXPと呼びました。XPのPは「polysemy(多義)」を表すという意味です。今回も標準的なSoXの(1)の例を示し、その後にその亜種である(2)のSoXPを再掲するところから話を始めます。

(1) Good morning, everyone. Remember how we had been concerned about meeting our monthly sales goal? Well, the new sweaters have all been sold. However, now the storage room is a mess and needs to be cleaned up—we have a lot of empty boxes and packaging in there. I’ve updated the duty roster with this assignment. And speaking of the roster, I know some of you are planning on being away soon for vacation. Please make sure I have your time-off request forms by the end of the week.
(公式TOEIC Listening & Reading問題集6 Test 1 Part 4 #83-85)

この問題文は、会議での上司社員による発言の抜粋という設定のモノローグです。セーターの売り上げ目標が達成されたものの、収納庫の散らかり具合に対処する業務当番表を更新したと言ったところで、「休暇願を出す人はお早めに」という展開になっています。下線部のrosterは両方とも当番表という意味で多義性はありません。よってSoXと分類します。

(2) Chuck : It’s a perfect marriage between technology and systems management.
Morgan : Speaking of marriage, Chuck, when are you going to make an honest woman out of Kelly?
『キャスト・アウェイ』(Cast Away, 2000) <00:15:33>

(2)はSoXPの例です。主人公のチャックは、婚約者のケリーの実家で、彼女の親戚とクリスマスディナーを食べています。食事をしながらチャックは、勤務するフェデラルエクスプレス社の最新の技術管理システムについて、雄弁に話をしています。ケリーの叔父のモーガンは、ケリーとなかなか結婚をしないチャックに焦燥感を抱いており、チャックが話の中で「融合」の意味でmarriageを使った瞬間を逃しませんでした。SoXPを使って原義である「結婚」の話題に引き込み、全員を爆笑させます。まさに多義性を利用した「我田引水」的会話の荒業です。

このようにSoX(SoXPを含む)は、具体的な語句をピンポイントに指しますが、1970年以降はspeaking of which (SoW) という別の変種のパターンの使用が急増しました。関係代名詞の非制限用法が、先行文脈をピンポイントではなく、広範囲に捉えることが可能なパターンです。

(3) Katherine : She is such a sweet girl. She’s saving money for college.
Karen : Speaking of which, where did Dave go to college?
『デスパレートな妻たち』 (Desperate Housewives, Season 5, Episode 3) (2008) <00:11:30>

詮索好きなカレンおばさんは、近所に住むイーディーの婚約者で謎の多い男デーヴの情報を聞き出すため、食事会に来ています。そのレストランのアルバイト女子大生のことを、キャサリンが「優しくてよい娘よ。アルバイト料金を学費の足しにしているの。」と言ったが早いか、カレンはSoWでデーヴの出身大学の話に転じます。SoWは先行情報を「ザックリ」と切り取ることができる点でSoXよりも簡便な表現方法と言えるかもしれません。

最後に、変数のXもWも何もない、SoZ(Zero)という形式を紹介します。このパターンは2000年以降から顕著にみられるようになったとされています。SoZはSoWよりも先行文脈をかなり広範囲に捉えることができるために、情報の関連性は若干希薄化される場合が多いとされます。(参考文献:『映画でひもとく英語学』(pp.40-41))

(4) Martin : … All the while, a whole generation of Swedes simply skirted the issue by never getting married in the first place. Thank you. Speaking of, have you all met my lovely wife, Ruth?
『ビリーブ 未来への大逆転』(On the Basis of Sex, 2018) <00:39:25>

(4)では、弁護士のマーティンがパーティーで、弁護士仲間とスウェーデン人が結婚しないのは、結婚税という変な税金があるからだと雄弁に語っています。その時に、妻で弁護士のルースが飲み物を持ってきます。マーティンはSoZを使って、スウェーデンの結婚の話題から転じて、自身の配偶者であるルースの紹介にスムーズに切り換えます。話題の関連性はそれほど強くないかもしれませんが、結婚つながりの話題転換となります。

SoXもSoWもSoZも速い会話の中で使いこなすのはかなり難しいと思います。就中、多義を操るSoXPという亜種の我田引水の荒業は、映画やドラマのセリフの離れ業だと思いますが、英語を生業とする私たち教員はスパッと使ってみたいものですね。