学校英語と映画のセリフ:映画で学ぶ英語の気づき

タイトル:学校英語と映画のセリフ:映画で学ぶ英語の気づき
投稿者:石原健志(大阪星光学院中学・高等学校)

映像メディアを英語学習に利用することで、「気づき」の度合いが高まることが期待されます。「気づき」はことばの学習に大切な役割を果たします。例えば、細かい文法規則がいつまでたっても身につかないのは、その知識が単に「理屈」として知っているだけにとどまってしまい、コミュニケーションの中で「使える」知識にならないためだと言われています。文法規則の定着は、学習者本人の気づきが大切だと言われています。肯定文から疑問文への変化や、英文法の穴埋め問題のような機械的な練習をいくら繰り返しても、そこで身につくのは、単なる記号的なやり方にとどまってしまいます。意味のある英語学習には場面設定のある練習活動が不可欠です。本稿では、映画『ハリーポッターと賢者の石』(Harry Potter and the Philosopher’s Stone, 2001)を使用して、中学で習う英文法の規則と映画の実例を照らし合わせ、英語学習の「気づき」に果たす役割について述べていきたいと思います。

最近の中学校の英文法書は記述が大変充実しています。『中学英文法 Fine [改訂版]』(渡辺, 2021)ではThere構文のthere is / are …に続く要素について次のように書いてあります。

「~」には不特定の名詞が入る。the・所有格の人称代名詞(myなど)・指示代名詞(this / that)など特定のものを指す語は使われない。
×There is the cat on the sofa.
(『中学英文法 Fine[改訂版]』p.144)

このような記述が中学校の英文法の参考書に記載されていることは、ひと昔前には考えられなかったのではないでしょうか。我々が思っている以上に学校英語が扱う英文法の記述は充実してきているのです。

しかしながら、このような規則を提示されるだけではなかなか英語学習は進みません。実際に映画を観てみると、ここで書かれた規則に反するように見える例も見つかります。次のセリフは『ハリーポッターと賢者の石』からのものです。

Ron: It’s a chessboard.(チェス盤の上だ)
Harry: There’s the door.(ドアがあるよ)
Hermione: Now what do we do?(どうする?)
<02:01:16>

このセリフでは、一見、先ほどの説明に反するようにThere’s の後に定冠詞付きの名詞句the doorが続いています。このようなセリフに出会うことは、英語学習の気づきに繋がる絶好の機会です。参考書に書いてあることと違う例に出会うことができるのが、映画など映像メディアの醍醐味です。ここで「例外に出会ってしまった。だから学校英語は役に立たない」としてしまうのは学習の機会を逃していることになります。例えば辞書を引いてみるのはどうでしょうか。そうすることで、今回取り上げた映画のセリフにおけるthere’s the 名詞句と学校英語の参考書に書かれた説明との違いに気づく機会になるでしょう。

英語学習は「気づき」を繰り返すことで英文法の理解が深まり、英語を使った様々なコミュニケーションの中で英文法のルールを使えるようになっていくのです。そういう意味で映像メディアは「英語の気づき」の宝庫だと言えます。また、中学英文法は英文法の基本ですが、必ずしも簡単であるわけではありません。「基本≠簡単」です。分かったつもりの中学英文法も、映像メディアの実例を通じて見つめ直すことで、きっと新しい気づきがあるでしょう。