変わり種の疑問文:wh-平叙疑問文

タイトル:変わり種の疑問文:wh-平叙疑問文
投稿者:三村仁彦(帝塚山大学)

今回は一風変わった疑問文についてお話したいと思います。一般に,英語の疑問文は主語とbe動詞・助動詞を倒置することで得られますが,話し言葉ではこの倒置を起こさずに疑問文を作ることも可能です。このような〈主語+be動詞・(助)動詞〉の語順をもつ疑問文は「平叙疑問文(declarative question)」と呼ばれ,典型的には話し手がこうだと考えていることを聞き手に確認したり,話し手の驚きを表したりする場合に用いられるとされています。音声面では文末は上昇調で発音され,表記上は疑問符が付けられます。

(1)
a. This is your car? (= I suppose this is your car, isn’t it?
b. That’s the boss? I thought he was the cleaner.
c. ‘We’re going to Hull for the weekend.’ ‘You’re going to Hull?’ (Swan 2016:302)

平叙疑問文は一般的な総合英語教材でも(簡潔にではあるものの)取り上げられていることが多く,上記Swan(2016)のような,より専門的な英文法解説書では基本的に専用の項目が立てられています。ところが,平叙疑問文にもwh-句を含むタイプがあることは,(筆者の知る限り)総合英語教材はもちろんのこと,どの英文法解説書でも触れられていません。ですが,映画や海外ドラマのセリフを注意深く観察していると,この型の平叙疑問部に出くわすことがままあります。それが今回ご紹介したい「wh-平叙疑問文(wh– declarative question)」です。

(2)
a. Tess, your silence indicates what?(テス,あなたの沈黙はいったい何を意味しているのかしら?)<00:30:45>『M3GAN/ミーガン』(M3GAN, 2022)
b. And I’m looking for what?(それで,私はいったい何を探せばいの?)<00:38:25>
『インデペンデンス・デイ』(Independence Day, 1996)
c. We are meeting again when?(次の会議は何時だ?)<00:06:25>
『ザ・ホワイトハウス』(The West Wing, Season 4, Episode 7, 2002)(飯田2022:79)

(2)が示すように,wh-平叙疑問文のもっとも大きな特徴は,wh-句が文頭に移動せず元位置(in-situ)に留まるという点にあります。また機能面では,通常の平叙疑問文と同様に感情的な疑問文であるとともに,疑問詞に対する聞き手の回答を強く要求し,談話の進行を促すはたらきをもつとされます(cf. Biezma 2020:7)。この点は,次の(3)で確認できます。

(3)
Donna Who: Uh, what are you doing with my bowling ball?
(ねえ,私のボウリング・ボールで何をしているの?)
Cindy Lou Who: Chasing it.(転がしてるの)
Donna Who: And you’re taking it where?
(それで,いったいどこに持っていくつもりなのかしら?)
Cindy Lou Who: It’s a secret.(それは内緒)
<00:32:34>『グリンチ』(The Grinch, 2018)

(3)は母親のボウリング・ボールを転がしながら出かけようとする娘と,その様子を見て驚く母親との会話です。母親は最初こそ単純なwh-疑問文で「何をしているの」と尋ねているものの,続くセリフでは一転wh-平叙疑問文を使って「いったいどこに持っていくの」とやや強めに問いかけています。これは,娘が最初の質問に対して十分な答えを返さなかったため,重ねて質問するにあたって,より納得のいく返答を求めて母親がwh-平叙疑問文を用いたものだと考えられます。

ところで,クイズ番組の司会者がよく用いるとされる,いわゆる「クイズ疑問文(quiz question)」も表面上は(4)のwh-平叙疑問文と同じ形式をもちます。

(4)
a. Terry McTeer: The majority of weather occurs in which atmospheric layer?(天候の大部分が発生するのはどの大気層でしょうか?)
<00:49:42>『クイズ・レディー』(Quiz Lady, 2023)
b. Terry McTeer: The Striding Man is the logo of what spirits company?(ストライディング・マンはどの酒類販売会社のロゴでしょうか?)
<01:11:16>『クイズ・レディー』(Quiz Lady, 2023)

両者が同一のものなのか,それとも2種類の異なる文がたまたま同じ形を有しているだけなのかは興味深い問題と言えるでしょう(cf. 三村2024)。

【参考文献】
Biezma, María (2020) Non-informative assertions: The case of non-optional wh-in-situ. Semantics & Pragmatics Volume 13, Article 18: 1-54
飯田泰弘(2022)『英語教材としての英語スクリプト(4):問い返し疑問文に関して』岐阜大学教育学部研究報告 人文科学71(1),129-138.
三村仁彦(2024)『wh-平叙疑問文の生起環境と語用論的機能について―映画・海外ドラマからの実例に基づく記述的分析―』第15回映像メディア英語教育学会東日本支部大会における口頭発表.
Swan, Michael (2016) Practical English usage (Forth edition), Oxford University Press, Oxford.