タイトル:クジラ構文(A no more X than B):「たとえ」を使ったレトリック
投稿者:石原健志(大阪星光学院中学・高等学校)
今回、英語の比較級の構文A … no more X than B(AはB同様Xではない)にスポットを当てたいと思います。この構文は、日本の英語学習参考書に頻繁に登場するもので、典型的な例は、A whale is no more a fish than a horse is.(クジラは馬と同じように魚類ではない)です。これは「クジラ構文」とも呼ばれ、A whale is not a fish but a mammal.(クジラは魚類ではなく哺乳類だ)という内容を強調する表現です。
この表現は、1818年のニューヨークで「クジラが魚か否か」を争う裁判で証言台に立った博物学者Samuel L. Mitchillの“… a whale is no more a fish than a man; …”(https://history.nycourts.gov/case/maurice-v-judd/) という発言が元になったと言われています。
この構文の特徴は、thanより前の内容が「ありえない」ことを際立たせるために、than以下に誰が聞いてもおかしい、あるいは馬鹿げていると思うものを「たとえ」として引き合いに出すことです。以下の(1)から(4)の例で、この構文を含めた「たとえ」を引き合いに出す表現について詳しく見ていきましょう。
(1) I can no more swim than a rock can.(私はカナヅチ(泳げない人)だ)
(2) Without air, organic materials won’t decay any more than plastic will. (空気がなければ、有機物はプラスチックと同じように腐敗しない)
(3) The sailors thought they had found no less a place than the Garden of Eden.(船員たちは、まさにエデンの園のような場所を見つけたと思った)〈早稲田大、2008年〉
(1)では、a rock canのあとにswimが省略されています。ここではa rock can swim(岩が泳ぐことができる)を「ありえない・馬鹿げている」ことの例として「岩が泳ぐこと」を引き合いに出して「私が泳ぐ」ことがいかにありえないかを示しています。
(2)のA not X any more than Bは、(1)のA no more X than Bの変種です。「プラスチックが腐る」こと(=ありえない前提)を引き合いに出して「空気がなければ、有機物が腐るのはあり得ない」ことを伝えています。
(3)はA no less X than B「AはB同様にXだ」あるいは「AはB(に匹敵する)ほどのXだ」を意味する構文です。no more than の構文と違い、「ありふれた当たり前のこと」を引き合いに出します。まず、they found a placeで「彼らはありふれた場所を見つけた」と述べつつ、その場所がthe Garden of Edenにも匹敵することをno less X than Bで表しています。この例にあるように、この構文では、Xの位置にはa personやa placeなど「ありふれたもの」がよく現れます。
英語には他にも「たとえ」を引き合いに出す表現があります。次の大学入試の実例を見てみましょう。
(4) A plane is able to fly itself about as much as the modern operating room can perform an operation by itself.(飛行機が人の手を借りずに飛ぶことができるのは、現代の手術室が自動で手術を行えるのと同じことだ)〈関西医科大学,2006年〉
この例ではA about as much as B(AはBと同じようなものだ)という皮肉が込められた表現が使われています。A plane is able to fly itselfということについて、the modern operating room can perform an operation by itselfを引き合いに出して、「人の手」が必要であることを強調し、「完全な自動操縦の飛行機」の実現の難しさを述べています。
最後に、映画におけるクジラ構文の例を見てみましょう。
(5) You invaded Narnia. You have no more right to lead it than Miraz does. (ナルニアを侵略したんだ。ミラースと同じようにそれ(=ナルニア)を率いる権利はない) <01:12:30>『ナルニア国物語 / 第2章: カスピアン王子の角笛』(The Chronicles of Narnia: Prince Caspian, 2008)
このセリフはミラース王という邪悪な王を引き合いに出して、カスピアン王子に対して投げかけられた言葉です。「邪悪なミラース王」と同様に、カスピアン王子に「ナルニアを率いる権利がないこと」を強調しています。
クジラ構文は学校英語で学んだものの、なぜそんな意味になるか分からなかったかもしれません。「たとえを出すレトリック」と考えることで、これまでより理解が深まるでしょう。