タイトル:Ought toの表す様々な感情
投稿者:衛藤圭一(京都外国語短期大学)
このコラムでは、学校英語などでshouldと似た意味とされることが多いought toの特徴について,映画などの英文を通じて見ていきたいと思います。従来、ought toとshouldは「忠告」や「義務」を表す点で共通しているものの、厳密に言えば、前者は決まり事などの客観的意味、後者は個人的意見のような主観的意味を表す点で異なると主張されてきました。一例として、Swan (1980)は(1)のような文では、客観的意味を表すought toの代わりに主観的意味のshouldを用いると不適格になるとしています。
(1) We ought to go and see Mary tomorrow, but I don’t think we will.(私たちは明日メアリーに会いに行かないといけないけど、私は行かないと思う。)
つまり、上の文でought toではなくshouldを入れると、「個人的に行かなければならないと思っているが私としては行くつもりがない」のように響き、but以下の主張と内容が矛盾することになります。
Close(1992)もSwanと同様に、以下のような棲み分けがshouldとought toに見られると述べています。
(2)
a. Applications should be submitted by March 31st at the latest.
(申込書は遅くとも3月31日までに提出されなければならない。)
b. You’ll have to make up your mind quickly. Applications ought to be in by tomorrow, and I doubt whether yours will arrive in time.(君は急いで願書を提出するかどうかを決めなければならない。願書は明日までに提出しなければならないが、早く決めないと願書の到着が間に合わないと思う。)
たとえば(2a)のshouldは単なる義務を表いていますが、(2b)のought toが表す義務には話し手の焦燥感や怒りといった感情を伴います。これは、ought toが義務を放置している点に注目を置いた表現であることから、「ぐずぐずするな」といった焦燥感や怒りなどの感情が生まれるためです。また、話し手が聞き手に早く遂行するよう促す場面では、shouldよりもought toが好まれるという趣旨の記述をCloseは行っています。その傍証として、ought toの使用例(2b)では先行文を通じて、締め切りが迫る中で応募を決めかねている聞き手に即断するよう促している点にご注目ください。
以上で述べた話し手の感情については、映画におけるought toの例でも観察することができます。(3)はため息をつきながら、救助隊である話者クルーズが中隊長ケイシーのふるまいを批判している場面ですが、ここではought toを用いることで話し手の焦燥感を表しています。
(3) I mean, you know I love Casey. But he ought to have more respect for Rescue Squad. (つまり、私がケイシーを好きなことは知ってるよね。でも、彼は救助隊にもっと敬意を払うべきですよ。)<00:12:29>
『シカゴ・ファイア』(Chicago Fire, Season 6, Episode 5, 2017)
Ought toが表す,話し手の感情は焦燥感だけではありません。たとえば次の例は話者ミッキーが「怒り」を露わにして責めている場面です。
(4) After all these years together, you don’t know what to do? You ought to be ashamed of yourself. Now, get out there and do it!(これまで何年も一緒にボクシングをしてきて、お前はどうしたらいいのかわからないのか?恥を知れ。さあ、ここから出て行って、戦うんだ!)<00:41:30>
『ロッキー 3』(Rocky III, 1982)
一方、下の(5)は別れて家を出ると告げた夫に対して、長年連れ添った話者Roseが涙を流しながら別の人生を送るよう告げている場面ですが、このような場合も妻の「悔しさ」や「悲しさ」といった感情を伴っているため、shouldよりもought toが好まれると考えられます。
(5) Well, maybe you ought to go on and stay down there with her. (じゃあ、そのままその女性と一緒に暮らした方がいいんじゃないの。)<01:19:28>
『フェンス』(Fences, 2016)
このように、ought toが使われる場合には、上記のような「話し手の感情」を伴う傾向があると言えます。もし映画を見ていて使用例を見つけたら、セリフが発せられる状況と話し手がどのような感情を交えて発話しているのかに注目してみてください。