2006年

【投稿一覧】
2006年12月21日
「字幕で楽しむ英語」 朴真理子
2006年12月07日
「明日に向かって撃て! 」藤枝善之
2006年11月16日
「クリスマス!といえば『あなたが寝てる間に』東郷多津
2006年11月07日
「皮肉と人間性―『Lion King』のScar」 西川眞由美
2006年10月12日
「スーパー・チーフ号~星の列車」 田中美和子
2006年10月10日
「トムクルーズとラストサムライ」 佐藤弘樹
2006年09月05日
「ことば遊び -文字通りの意味と比喩的な意味-」 横山仁視
2006年09月05日
「”May the force be with you!”の意味を考えてみる」 坂本季詩雄
2006年08月07日
「a lotとthe lot」 小野隆啓
2006年08月06日
「映画におけるカメレオン動詞のdo」 倉田誠
2006年08月06日
「ハリー・ポッターとイギリス英語」 奥村真紀
2006年07月06日
「『キューティブロンド』に見られる英語」 石川保茂
2006年06月29日
「I am Sam に学ぶ発信英語」 井村誠
2006年05月08日
「載せたかったもう一つの名セリフ in The Bridges of Madison County」
横山仁視
2006年05月08日
「映画の”let…go”」 倉田誠
2006年05月08日
「”I love you.” in Titanic」 藤枝善之


2006年12月21日

タイトル:「字幕で楽しむ英語」
投稿者:朴真理子(近畿大学)

『招かれざる客』では、白人女性ジョアナと黒人男性ジョンが恋に落ち、両家の両親に結婚の許可を求めます。ジョンの両親をジョアナ宅に呼び寄せはしたものの、異人種間の結婚は世間の大きな反感を買う(『音読したい、映画の英語』(P213「禁じられた結婚」参照)ということもあり、両家の両親の中でも、特にジョアナの父は「急ぎすぎではないか。」と訝り、結婚に急ぐ二人にブレーキをかけようとします。その後に続いたのが次のやりとりです。

ジョアナの母: I would like Ms. Drayton to see the view.(お母様に景色を見て頂きたいわ。)
ジョアナの父: View? What the hell are you talking about? What view?(景色?一体何の話だ?)
ジョアナの母: From the terrace. Before it get too cold.(テラスからのですわ。寒くなってくる前に見て頂きたいの。)

ジョアナの母には、結婚に不賛成気味の父親達から離れて、テラスに場所を移し、母親同士で率直な意見交換をしておきたいという気持ちがあったのでしょう。しかし、実際には、映画の日本語字幕では、次のとおりに訳されています。

ジョアナの母:「お母様の意見は?」
ジョアナの父:「何の意見?」
ジョアナの母:「お庭のよ。見ていただける?」

同じviewという語を「意見」と解釈し、また、I would like to see Ms. Draton’s view. であるかのように訳されているため、字幕からは、ジョアナの母親の繊細な配慮も、また、それに気づかない父の状況も伝わりにくくなっています。映画の味わい方のひとつとして字幕の意味に注意をしてみるのも楽しいのではないでしょうか。


2006年12月07日

タイトル:「明日に向かって撃て! Butch Cassidy and the Sundance Kid 1969年(アメリカ」)
投稿者:藤枝善之(京都外国語短期大学)

舞台は、19世紀末のアメリカ西部。この映画は、ノスタルジックなセピア色の映像で幕を上げます。

数人の男が酒場でカード・ギャンブルに興じています。口ひげを蓄えた精悍な顔つきの男が一人勝ちをしている様子。「大した腕だな。この俺様でもお前さんのイカサマは見抜けねえよ」と、向かいの席のメーコンという男が、銃を腰にゆっくりと立ち上がります。「その金を置いて出て行きな」そこへ、愛想のいい中年男が近付いてきて、「今、出ていこうと思ってたところさ」と、口髭の男を連れ出そうとします。小声で、「やつは銃を抜くぞ。見てみろ、早撃ちに自信ありそうだ」中年男の説得はさらに続きます。

BUCH: I’m over the hill, but it can happen to you.(俺はもう若くないが、お前もそうだろ)
「ありがたいご忠告だな」

とうそぶく口髭男に、

BUCH: Every day you get older. Now, that’s a law.(人間毎日年を取るんだ。それが定めってもんさ)

中年男は、一触即発の両者を何とか取りなそうとしますが、結局あきらめます。「もうどうなっても知らねえぜ、サンダンス」

この「サンダンス」という名にメーコンの顔色がさっと変わります。それもそのはず、「サンダンス」といえば、西部中にその名を轟かせている早撃ちのガンマン、サンダンス・キッドに違いありません。そして相棒の中年男は、悪名高い銀行強盗団「壁の穴」を率いるブッチ・キャシディ。恐怖に包まれたメーコンは戦意を失ってしまいます。その直後、メーコンの目の前で見事なガンさばきを披露したサンダンスに、ブッチが言います。「だから俺達もう若くないって言ったろ」

この映画は、盛りを過ぎた無法者が、頑丈な金庫、列車、自転車などが象徴する時代の波に弾き出されて破滅していく姿を、叙情的な映像と音楽で描きます。主人公は「明日に向って」生きているつもりが、実は明日から拒絶されているのです。ブッチのセリフにあるover the hillは、「最盛期を過ぎて」という意味ですが、主人公が年齢的に もう若くないことを表しているだけでなく、彼らのライフスタイルそのものが時代から取り残されつつあることをも暗示しています。ユーモアと共にしみじみとした哀愁を感じさせますね。


2006年11月16日

タイトル:「クリスマス!といえば『あなたが寝てる間に』」
投稿者:東郷 多津(京都ノートルダム女子大学)

日本ではハロウィーンが終わると一足飛びにクリスマスがやってきます。師走でもないのになんだか11月から落ち着きません。ところでアメリカではクリスマスの定番の映画といえば、『素晴らしき哉、人生』、『34丁目の奇跡』、『クリスマス・キャロル』などがありますが、私のお気に入りの映画はこれです。

本物のクリスマス・ツリー、デコレーションした家、エッグノッグ、家族の名前入りの靴下、玄関の宿り木の下で男女がキスをするという習慣、そして家族写真。日本ではカップルで過ごす印象の強いクリスマスですが、欧米では家族で過ごす休日です。

クリスマス当日の仕事を押しつけられた天涯孤独のLucyは、その朝、幸運にもあこがれの白馬の王子Peterから「メリー・クリスマス」と声をかけられますが、喜んだのもつかの間、ひったくりにあった彼は線路に落ち昏睡状態に陥ってしまいます。そして、命の恩人のLucyはなんとPeterの婚約者として家族に受け入れられてしまいます。ついに真実を話すLucyの言葉は家族の大切さを教えてくれます。

LUCY: I might have saved your life on the tracks that day. But you know what? You really saved mine. You allowed me to be a part of your family, and I haven’t had that in a really long time. And I just didn’t want to let go of that.(あの日線路であなた(ピーター)の命を助けたかもしれないけど、ねぇ、わかる?本当に助けられたのは私だったの。あたなは私を家族の一員にしてくれた。ずっとなかったから、手放したくなかったの。)<01:34:29>


2006年11月07日

タイトル:「皮肉と人間性―『Lion King』のScar」
投稿者:西川 眞由美(摂南大学)

映画では、登場人物の人間性を表す方法として特定の言語使用を用いることがあります。たとえば、『Lion King』に出てくるScarの皮肉発話はその典型的な例です。ScarはPride Landsに君臨する王Mufasaの弟として生まれ、自分より優れている兄に強い劣等感を抱いています。Mufasaには王位継承者の息子Simbaがいるのですが、ずるがしこいScarは常に自分が王座につく機会をねらっています。こんなScarの複雑な気持ちは、頻繁に出てくる彼の皮肉発話によく現れています。例えば、Mufasaに自分の息子Simbaが次の王になると宣言された場面で、内心では嫉妬で煮え繰りながら次のように言って王にへつらいます。

SCAR: Ohh, I shall practice my curtsy.(ひれ伏す練習をしよう。)<00:06:16>

さらに、幼いSimbaから彼が次の王になることを聞いた時にも、Scarは次のように心にも無いはなむけの言葉を述べます。

SIMBA: I’m going to be king of Pride Rock.(僕ね、王様になるんだ。)
SCAR: {Sarcastically} Oh goody.(良かったな。)<0:12:17>

偉大な王Mufasaを恐れるハイエナ達に、自分のことを仲間呼ばわりされ、自分への尊敬の念に欠けるその言葉に失望しながら、Scarは次のように言います。

SCAR: {Sarcastic} Charmed.(光栄だ。)<0:27:21>

このように、『Lion King』では、MufasaとSimbaの正義感に満ちたまっすぐな性格が彼らの誠実な言葉で表されているのに対し、屈折したScarの性格をその皮肉発話がうまく表していると言えるでしょう。


2006年10月12日

投稿者: 田中 美和子(京都ノートルダム女子大学・非)
タイトル: 「スーパー・チーフ号~星の列車」

映画『ローマの休日』(1953)で、ジョーは、ポーカーを終えて家へ帰る途中、セプティミウス凱旋門で眠り込んでいるアン王女に出会います。夜空と古代ローマ遺跡フォロ・ロマーノの美しい白い建物とを背景に、ジョーがタクシーをとめてアン王女を送っていこうとする場面です。

Princess Anne: It’s a taxi.(タクシーだわ)
Joe: Well, it’s not the Super Chief.(安いから安心して)<00:21:23> 

ジョーのセリフは、DVD字幕で「安いから安心して」と訳されていますが、文字通りの意味からは随分離れていますね。ジョーの言う“the Super Chief”とは、一体何でしょうか。

アンは王女なので、おそらく一般のタクシーには乗ったこともないのでしょう。タクシーを見て、少し声をあげて興味津々な様子です。ジョーは、この時、まだ彼女が王女であることを知りません。

ジョーの言った「スーパー・チーフ号(The Super Chief)」とは、シカゴとロサンジェルス間のサンタフェ鉄道を走る豪華寝台列車のことで「星の列車(Trains of Stars)」とも呼ばれ、凄い人気があり、全盛期は1950年代までとされています。「星の列車」とは日本語で言えば「銀河鉄道」と言ってもよいでしょう。豪華な寝台列車にはロマンチックなイメージがあり、「安いから安心して」のように値段にだけに触れているのではありません。当時の憧れの的であったスーパー・チーフ号ではありませんよ、と言ったのです。日本語にするなら「そうさ、銀河鉄道というわけじゃないよ」など、列車のイメージを使った表現はどうでしょうか。

字幕では、限られた文字数で意味を伝えなければならないため、思い切った意訳がなされ、時には、それがセリフの解釈を狭いものにしています。字幕に頼らず、1つ1つセリフを解釈すると、映画をもっと深く味わえると思います。


2006年10月10日

タイトル:「トムクルーズとラストサムライ」
投稿者:佐藤弘樹(FM京都α-stationエアーパーソナリティー /京都外国語大学(非))

ハリウッドスターの売り物は演技と醜聞(スキャンダル)とも言われる。最近、メディアを騒がせたトムクルーズもその一人。TVでの奇行と新興宗教の擁護発言からパラマウント映画が契約打ち切りを発表した。彼には学習障害(LD : learning disability)、失読症(Dyslexia)があり、出演作品のセリフは人に読んでもらって暗唱したとも言われている。彼が擁護発言を繰り返したのが、LDを克服するために学習したといわれる新興宗教のサイエントロジー(Scientology)である。また、彼はTVトークショーに出演してカウチソファーの上で飛び跳ねるなどの奇行も目立った。このため jump the couch で「自制心を失って言動の見境がなくなった状態の決定的瞬間」という新語が流行ったりしたという。

現実社会では奇行の目立つ彼も銀幕ではさすがの名演技を見せてくれる。
アメリカ日本ニュージーランド合作のラストサムライ(2003)は、日本を舞台に日本人と武士道を偏見なく描いたハリウッド作品として注目を集めた。この中で渡辺謙が演じた「勝元」がこんなセリフを口にする。

Many of our customs seem strange to you. The same is true of yours.
(異国のしきたりは奇妙に思える、互いにな。)<00:43:11>

明治初期にこれほど流暢な英語を操る武士が実在したかどうかはともかくとしても、欧米文化と日本文化を優劣で描く事の多いハリウッド作品にあっては出色の台詞といえないだろうか。また今となっては現実社会と銀幕社会のしきたりの違いからバッシング(bashing)を受けるトムクルーズを諌める勝元のセリフとも聞き取れる。


2006年09月05日

タイトル:「ことば遊び -文字通りの意味と比喩的な意味-」
投稿者:横山 仁視(京都女子大学)

単語には、文字通りの(literal)意味と比喩的な(figurative)意味の両方の使い方があるものが数多くあります。この映画にもそうした単語が多く使われています。次は、APOLLO 13(1995)の映画の1シーンで、アポロ13号の打ち上げを見るために駆けつけたクルーの妻同士の会話です。

MARILYN: You’re not just about to pop, are you?(急に産気づかないでね)
MARY: I got 30 days till this blast-off.(こっちの発射はあと1ヶ月よ)<00:30:15>

popという単語には「<物が>ポンと鳴る;飛び出す;はじける」という中心的な意味があり、自動販売機にお金を入れると品物が下の取り出し口からポンと勢いよく出てきたり、a pop-up book(飛び出す絵本)のようにページをめくると絵が浮き上がり飛び出す様子を表します。一方、blast-offは「(ロケットなどの)打ち上げ、発射」という意味を持つ単語です。この場合、この2つの単語にこうした使われ方があることを知らなくても、画面を観ていれば状況から何を言っているのか判断することは決して難しいことではありません。ついでに、rocketという語幹を含むskyrocketは「(価格などが)急上昇する」という意味があり、The trade deficit has skyrocketed. やskyrocketing inflation(Longman Exams Dictionary: Your Key to Exam Success, 2006)のように使われます。touch downの句動詞も「<航空機などが>着陸する;(ボールを)タッチダウンする」の他にも実際の海外のメディアでは「<台風などが>上陸する」といった状況にも使われているのを耳にしたことがあります。

意味が比喩的に使われているセリフを探しながら映画を観るのも、表現力を増やす上で面白いものです。


2006年09月05日

タイトル:「”May the force be with you!”の意味を考えてみる」
投稿者:坂本季詩雄(京都外国語大学)

6話あるスター・ウォーズ・サーガ全編に登場するのは、ロボットのコンビ、R2-D2とC-3POと不可思議な力「フォース」です。『エピソードV、帝国の逆襲』において、ルーク・スカイウォーカーはフォースを体得するため、ジェダイ・マスター、ヨーダの元で訓練を受けます。ヨーダはフォースが善悪両面を持っていること、フォースが全ての物質と人の間に生じるエネルギーであることをルークに伝えます。

サーガ全体を構想したジョージ・ルーカスは「宗教に関心を持たなくなった若者に、このフォースを”スピリチュアリティー”として考えてもらいたい」と言っています。東洋系の賢者の風貌のヨーダが語るフォース観には東洋思想の匂いがします。ルーカスはグローバライズしている現代では、様々な価値観を受け入れるのは当然で、そういう価値観に従いスター・ウォーズ・サーガを描いたとも語ります。さらにキリスト教的価値観だけでなく、仏教思想も取り入れたと認めています。

「色即是空、空即是色」という仏教の根本思想では、あらゆる物質的現象はとどまることなく移り変わり滅びるという過程にあるのだから、物事に拘泥せず、変化を自然な出来事として受け止めるように教えているようです。ルークも彼の父、ダース・ヴェイダーも愛する人の死を運命として受け入れなかったために、フォースのダーク・サイドに囚われました。フォースのライト・サイドにこだわり、紛争解決のため「交渉人」として奔走するヨーダ達、ジェダイも暴力的衝突しか生み出せません。現在、宗教的価値観の違いにより引き起こされる、世界各地で頻発する暴力の背景にも同じものがあるように思えます。

“May the force be with you!”という言葉にどのような意味を見出せるのか、と考えながらサーガを見直すのも厳しい残暑の一興です。


2006年08月07日

タイトル:「a lotとthe lot」
投稿者:小野隆啓(京都外国語大学)

Harry Potterシリーズもすでに第4作のHarry Potter and the Goblet of Fireまで映画が完成し絶大な人気を集めています。原作者のJ. K. Rowlingの英語はとても興味深い英語の側面を浮き彫りにしてくれます。

例えば、第1作のHarry Potter and the Philosopher’s Stoneの中で、HarryとRonがHogwarts行きの列車の中で初めて会って話している途中に、車内販売の魔女がやってきてAnything off the trolley, dears?とHarryとRonにたずねます。Ronはランチを持っているのでNo, thanks. I’m all set.と答えます。でも、実はお菓子を買いたいのですが、Ronは7人兄弟の6番目。お小遣いは大切に使わなければなりません。なので、お菓子を買うのを我慢します。その表情をじっと見ていたHarryは次のように言います。

Harry: We’ll take the lot.

さて、このthe lotという表現、どのような意味で使われているのでしょうか?a lotであれば中学、高校で習いますから「多くの」という意味で、上のHarryのセリフは「いっぱいちょうだい」という意味になりますね。でも、ここはthe lotなのです。a lot ofで「多くの」の意味になることは、単に覚えますね。わざわざlotを辞書で引いて意味を確認した人はほとんどいないでしょう。でも、lotは「一山」とか「ひとかたまり」の意味なのです。a lot of applesは「一山のリンゴ」なので、そこから「多くのリンゴ」となったのです。すると、the lotと言うと、「その一山」と言うことになります。trolleyを見ながら「その一山、ちょうだい」と言うことは、結局「全部、ちょうだい」と言うことになります。つまり、Harryは買い占めてしまったのです。

この英語の部分、音声で聞くとthe lotと言っているのかa lotと言っているのか、かなり聞き分けるのが難しいところです。でもnative speakerはちゃんとthe lotと聞いていて、意味も「前部ちょうだい」だと思って見ていて、われわれ外国人はa lotだと思って聞いていて、意味も「たくさんちょうだい」だと思って見ているわけです。解釈が違っていても映画全体の理解に支障はありません。でも、native speakerと違った解釈をしているなんて、なんか、しゃくですよね。


2006年08月06日

タイトル:「映画におけるカメレオン動詞のdo」
投稿者:倉田誠(京都外国語大学)

Bodyguard(1994)で、大統領のボディガードを専門としてきたフランクがレイチェルという超一流黒人歌手の護衛を依頼され、”I don’t do celebrities.”と言って断ります。「芸能人の護衛は引き受けない」という意味ですが、どうしてそんな意味になるのでしょうか?実は英語のdoという動詞は「カメレオン動詞」で、主語や目的語が持つ特色を吸収して意味に反映させる機能を持つのです。つまり、上記の文はフランクがボディーガードであることが前提で成り立つ文なのです。このdoのカメレオン的な振る舞いを満喫できる映画にMrs. Doubtfire(1996)があります。家政婦の面接シーンで下記のようなdoを使った表現が、応募してきた女性の口からマシンガンのように飛び出してきます。しかし、これらは家政婦さんという前提がなければ意味不明ですよね。

“I don’t do laundry. I don’t do windows. I don’t do carpets. I don’t do bathtubs. I don’t do toilets and I don’t do diapers. I don’t do washing. I don’t do basements. I don’t do dinners. I don’t do reading.”
(洗濯はお断りです。窓拭きも、じゅうたん掃除もお断りです。風呂掃除も、トイレ掃除も、オムツ交換もお断りです。皿洗いも、地下室の整理も、夕食作りもお断りです。本の読み聞かせもお断りします。)

という意味です。応募してきた女性には「仕事をする気があるのか」と突っ込みたくなりますが、動詞doの「カメレオンパワー」を楽しむには最高のシーンでしょう。


2006年08月06日

タイトル:「ハリー・ポッターとイギリス英語」
投稿者:奥村真紀(ケンブリッジ大学客員研究員)

全世界的に大ヒットしている、J. K.ローリングの「ハリー・ポッター」シリーズ。映画ももちろん大成功を収めていますが、英語をよく聞いてみると、少し耳慣れないところがあるかもしれません。舞台がイギリスに設定されているため、私たち日本人が義務教育で習ってきたアメリカ英語とは違う、イギリスの発音を聞くことができるのです。もっとも顕著なのが主人公、Harry Potterという名前の発音。アメリカ英語で発音すると、[o]は「ア」の音に近くなり、さらに強い母音と弱い母音に挟まれた[t]の音がlの音に近くなるので、ハリー・「パラー」のように聞こえます。しかしイギリス英語では「ポター」とはっきり聞こえてきています。

また、それぞれの登場人物が話している言葉もよく聞いてみてください。聞き取りやすい人物と、聞き取りにくい人物がいると思います。(例えば優等生のハーマイオニは、劣等生のロンよりもずっとわかりやすい英語を話すのが分かるでしょうか。)比較的バラエティの少ないアメリカ英語に比べて、イギリスではそれぞれの人が、出身地や階級に応じた英語を話します。BBC英語と呼ばれる、いわゆる標準語を話す人は国民全体の2%にすぎず、イギリスで生まれ育った生粋の英国人は、少し話しただけで相手の出身地域がだいたい推測できるそうです。日本と同じように方言が根付いているのです。そしてみんな自分たちの話す英語にとても誇りを持っています。最近ではBBCでも純粋な標準語はほとんど聞かれなくなりました。               

発音だけでなく、単語や綴りもイギリスとアメリカではいろいろ違います。「ブリジット・ジョーンズ」や、「ハリー・ポッター」のシリーズで、是非イギリスの英語を聞き、文化に触れてみてください。

余談ですが、ロンドンのキングズ・クロス駅9と3/4番線にはカートが刺さっていて、いつも観光客が絶えません。

ロンドンキングズクロス駅

2006年07月06日

タイトル:「『キューティブロンド』に見られる英語」
投稿者:石川 保茂(京都外国語短期大学)

この映画は20代の女性を中心に話が展開しますので、恋愛や大学生活に関する表現が多く見られます。まず恋愛に関する表現です。

good enough for you (あなたにふさわしい)
steal back (恋人を取り返す)
break up (別れる)
dump(恋人を捨てる)
the one(本命)

などが使われています。大学生活に関する表現は、やっとの思いで合格したハーバード大学大学院の入学オリエンテーションで、エルが受付の男子学生に言うセリに、立て続けに出てきます。

ELLE : Social events, you know, mixers, formals, clambakes, trip to the Cape. (社交行事ですよ。たとえば、合コン、ダンスパーティー、バーベキューパーティー、岬への旅行とかですよ)

このように、私たちが無意識のうちに使っている語句には、実は「言葉のジャンル」があるのですね。この映画の名せりふなど、詳しくは、『音読したい、映画の英語-心に響く珠玉のセリフ集』(株式会社フォーイン、スクリーンプレイ事業部/http://www.screenplay.co.jp/books/isbn4-89407-375-7.html)で解説されています。どうぞご覧ください。


2006年06月29日

タイトル:「I am Sam に学ぶ発信英語」
投稿者:井村 誠(大阪工業大学)

ネクタイの結び方を、英語で言えますか?
愛娘Lucyの養育権をめぐる裁判に出廷する前夜、弁護士のRitaは、別れた主人のスーツをSamに着せます。驚くかな、スーツはジャスト・フィット。でも、Samはネクタイの結び方を知りません。RitaはSamの後ろへまわって、優しくネクタイを結んであげます。

SAM: I wasn’t exactly sure how to tie this. Does it look bad?
RITA: No. Very, very good.
RITA: Uh, cross over once. And loop this around. And up inside of the neck. And then pull up on the skinny part.
SAM: Oh. Yeah.

このRitaのセリフですが、わずか4つのセンテンスで完璧に手順を説明しています。

1. Cross over once.(クロスさせて)
2. Loop this around.(輪をつくるようにまわして)
3. Up inside of the neck.(首の内側から上に通して [今度は外側で下に通し])
4. Pull up on the skinny part.(細い方を持って、結び目を上に引き上げれば出来上がり。)

この簡潔な説明の順序と、絶妙な前置詞の使い方には、舌を巻きますね。この結び方はplain knotと呼ばれる最も簡単な結び方ですが、他にもWindsor knotなどの結び方があります。詳しくは、http://www.studioselfit.com/os/point.shtml などを参照してください。


2006年05月08日

タイトル:「載せたかったもう一つの名セリフ in The Bridges of Madison County
投稿者:横山仁視(京都女子大学)

『音読したい、映画の英語』(スクリーンプレイ社)に一押しで選びたかったセリフがある。『マディソン郡の橋』(1995)のロバート役のクリント・イーストウッドの次のセリフだ。Robert: “I’ll say this once. I’ve never said it before. But this kind of certainty comes but just once in a lifetime.”(一度だけ言う。初めて言う言葉だ。これは生涯に一度の確かな愛だ)<01:46:55>

確かに声に出して読めば、音のつながりもよく一度で暗記してしまえる流れるようなリズムだ。中学生英語で十分、声に出して読みたくなる、パンチのきいた感情が凝縮されたセリフだけど、現実の世界ではなかなか恥ずかしくて声に出しては伝えられない・・・映画の名セリフとはそういうものなのかもしれない。ちなみに、あと2箇所気に入っているセリフがある。同じくロバートのセリフとフランチェスカ役のメリル・ストリープのセリフだ。

Robert: “…I look through the lens of my camera and you’re there. I start to write an article and I find myself writing it to you. It’s clear to me now…that we have been moving towards each other…towards…those 4 days, all of our lives.”(カメラをのぞくとあなたが見える。記事を書き始めるとあなたを想って書 いている。僕らはあの4日間のために-お互いに出会うために生きてきたのです)<00:06:05>

Francesca: “I can’t make an entire life disappear…to start a new one. All I can do is try to hold on to both of us…somewhere inside of me. You have to help me.”(新しい人生のために過去を消し忘れろと言うの?心の中の私たちを支えに生きてくわ。分かってちょうだい)<01:44:50>

まるでラブレターのオンパレードだ。でも、英語学習の基本は、セリフや語彙を暗記して、教室外の現実の社会状況の中でそれらを実際に使用してみようとさせる気を起こさせる英語に出会えるかが大切かも!?


2006年05月08日

タイトル:「映画の”let…go”」
投稿者:倉田誠(京都外国語大学)

日常会話や映画でよく用いられるlet~goという動詞句の意味を煎じ詰め(せんじつめ)ましょう。goの基本的意味は「(現在地点から)離れる」です。またletは「その動きを妨げない」です。この2つを合わせた意味的イメージだけでとらえると目から鱗(うろこ)です。一部の映画で検証しますね。まず『トップガン』(1986)では、事故で死んだ相棒グースの亡骸(なきがら)を放さないマベリックに、水中処理兵が”You’ve got to let him go, sir.”(放してください)といいます。その直後の場面では、落ち込んでいるピートに、主任教官のバイパーが同じ文で”You’ve got to let him go.”(奴のことは忘れろ)といいます。邦訳は「放す→忘れる」と変わっていますが、イメージは同じですね。後者の「忘れる」という意味での用法が『キャスト・アウェイ』(2000)にも出てきます。無人島での四年余の孤独との闘いから逃れてきたチャックに対して親友のスタンが、「ケリーは飛行機事故で君を亡くしたと思っていたのだよ」という意味のセリフが”Chuck, Kelly had to let you go.”となっています。そうかと思うと、『ファミリー・ゲーム』(1998)では離婚した父親に対して、双子の娘の1人が「あんなに素晴らしいママとどうして別れたの」という意味で、”I don’t know how you ever let her go.”といっています。また『ロッキー2』(1979)ではロッキーと再試合したいというチャンピオンのアポロに、トレーナーが”Let it go! You’re the champ!”(やめておけ、チャンプはお前だ)と反対します。更に『めぐりあう時間たち』(2002)では、エイズに苦しむリチャードが恋人のクラリッサに、 “But now you have to let me go.”「もう死なせてくれ」といいます。最後に『クレーマー・クレーマー』(1979)では、主人公テッドの業績不振に業(ごう)を煮(に)やした社長のジムが、”Yeah, I’m letting you go, yes.”(ああ、君には辞めてもらうよ)といいます。let~goは文脈によってコロコロと意味が変わるように見えますが、イメージは「その場から~を離れさせる」だけでOKです!このような表現の検索にはスクリーンプレイ社の「映語犬サク」が便利ですので、一度使ってみましょう。


2006年05月08日

タイトル:「”I love you.” in Titanic」
投稿者:藤枝善之(京都外国語短期大学)

映画『タイタニック』の終盤、主人公のジャックとローズの間で次のような興味深い会話が交わされます。タイタニックが沈没し、二人は羽目板につかまって、海を漂います。ジャックは、冷たい水に沈みそうになりながら、「僕は、船会社にこの事故について抗議文を送るつもりだ」などと言ってローズを励まします。寒さと疲労で意識が遠くなっていくローズが言います。

ROSE: I love you, Jack.

表向きは「愛してるわ、ジャック」ということですが、実は裏の意味があるんですよ。それは、「さよなら、ジャック」。次のジャックのセリフを読めば、それがよくわかります。

JACK: Don’t you do that. Don’t you say your good-byes. Not yet. Do you understand me?(そんなこと言うな。サヨナラなんて。まだ言っちゃダメだ。わかるね?)

英語圏の国(特にアメリカ)のカップルや親子は、日常生活の中で、別れ際によく“I love you.”と言います。日本の夫婦なら朝、「行って来るよ」「行ってらっしゃい」と言う場面でも、アメリカの夫婦は “I love you.” こんな文化なので、ジャックはすぐに、その裏の意味を悟ったのですね。では、特に別れ際でもないのにあなたがアメリカの異性から “I love you.”と言われたら? これは愛の告白? 喜ぶのはまだ早い。たんに「ありがとう」程度の感謝を表していることも多いのです。言葉と文化は表裏一体。切り離して学ぶことはできませんね。