タイトル:映画を補助教材として用いた英語学習の動機付けの一考察
投稿者:金田直子(神戸女子大学・非)
私は英語専攻ではない学生を対象に教養英語としての授業を担当しています。私の担当クラスの学生の多くは栄養士を目指し日頃勉学に励んでいます。一回目の授業時に自分の学習目標や英語への想い、英語学習のバックグラウンド、この授業での目標などを知るためのアンケートを実施します。下は2022年4月のアンケート結果の一部です。
質問:本授業で英語のどのスキルを身につけたい/伸ばしたい?
① プレゼンテーションスキル 0
② リーディングスキル 3
③ ライティングスキル 0
④ リスニングスキル 10
⑤ スピーキングスキル 17
⑥ 上記全て 3
⑦ 上記以外 0
回答の1位が【スピーキングスキル】、ついで【リスニングスキル】でした。また、自由に書いてもらったコメント欄には「プレゼンまではできなくても英語を少し話せるようになったら世界が広がる気がする」、「海外旅行で英語を使ってもっと楽しみたい」など英語を使うことで自分の視野が広がる、仕事の選択肢が増えるのではという意見が多く見られました。
次に英語が苦手な理由を尋ねると「正しい発音で話せないから恥ずかしい」、「ネイティブみたいに話せない自分が英語を話すとカッコ悪い」などのコメントが多くみられました。このことから「英語を話すには正しい発音と文法でなければいけない」という気持ちが多くの学生の英語を学ぶ、特に英語で話すことにネガティブな影響を及ぼしていることがわかりました。
そんな学生たちの不安を少し取り除くため、限られた時間の中で心を動かすように綿密に作り込まれたストーリーをもつ映画を視聴することで、学生の学習意欲をより高めることを目標にした授業構成にし、映画『マダム・イン・ニューヨーク』(English Vinglish, 2012)を教材にすることにしました。本映画はヒンディー語を話す登場人物が英語ネイティブスピーカーよりもはるかに多く、そのため言語的な学習よりも、学生にはストーリーに共感し、感情を揺さぶり、英語で話すことへの不安を少し取り除く手助けをするためのツールとして活用しました。
主人公シャシは、夫と子供たちの為に人生を捧げてきたごく普通のインド人の主婦です。あることをきっかけに家族には秘密でニューヨークの英会話学校に通い、自信や人生の輝きを取り戻すというお話です。下は特に学生たちが固唾を飲んで見つめていたシーンです。英語が全く話せない主人公のシャシが、初めてニューヨークのカフェで飲み物を注文します。
Staff: Anything to drink?(飲み物は?)
Shashi:Water.(水を)
Staff: Still or sparkling?(炭酸は?)
Shashi:Only water.(水だけ)
Staff: Still or sparkling?(炭酸入りかどうかよ)
Shashi:C, c, coffee…? (コーヒー?)<00:42:09>
英語がわからないシャシに対する店員の冷たい態度、注文が上手くできないシャシへの他の客による露骨な苛立ちなどが描かれています。ここで一気に学生たちは、英語を話すのに四苦八苦している主人公に自分を重ね、共感し始めます。また本映画には、シャシが通う英会話学校の仲間との友情や、シャシが英語で披露する感動的なスピーチなど、学生が登場人物たちに共感できるポイントが盛り沢山です。
学生からのコメントに「ネイティブみたいに話せなくてもシャシみたいに自分の言葉で表現したらいいんだと思った。」、「私もシャシのように一歩踏み出したい。ちゃんと英語に取り組みたいと思った。」など、シャシに共感し、少し前向きになったという意見が多く見られました。映画を効果的に使うことは、言語的な学習だけでなく、英語学習者が英語を話すことに対して抱く心理的な壁を取り払うきっかけになるのではないでしょうか。