タイトル:所有を表す “have got” について
投稿者:松浦加寿子(中国学園大学)
通例、“have got” には二つの解釈が存在しています。一つは “have acquired” を意味する解釈であり、もう一つは “have, possess” を意味する解釈ですが、ここでは後者に焦点を当てます。イギリス英語の口語表現でよく見られる “have got” = “have, possess” はどのような歴史的発達を辿ったのでしょうか。荒木・宇賀治(1984: 436)によると、以下のとおり記載があります。
have got のこの新用法は16世紀後半に始まったと思われる。have が助動詞として頻用されるにつれて、本来の意味が薄れたと感じられ、補強表現にhave got が転用されたものであろう。使用域(register)に関しては、18世紀までは主として口語に限られたが、その後は文語へも拡がった。
つまり、17世紀には “have got” = “have, possess” が用法として確立し、現在に至ることになります。
また、Swan(2016)は音韻的側面から “have got” の助動詞 “have” は弱形のため、平叙文や疑問文で省略されることが多いと指摘しています。日常会話でも “have” と主語の “you” が省略された “Got a minute?” (ちょっと時間ある?)という表現は多用されています。
映画『僕のワンダフル・ライフ』(A Dog’s Purpose, 2017)では、犬のベイリーが転生を繰り返しやっと巡り合えた飼い主のイーサンに、自分がベイリーであることを気付いてもらうために、昔遊んだ(空気の抜けた)ラグビーボールを口にくわえてやってくる場面で次のセリフが見られます。
Ethan: What do you got there? Where did you find that? Hey. You wanna play? Get ready. You have to really go after this one. Go get it.(それは?どこで見つけたんだ?遊びたいのか?いいか?追いかけるんだ。取ってこい。)<01:30:15>
この “what do you got” という表現は、本来であれば “what have you got?” となるはずですが、“got” を動詞の “have” とみなすことで助動詞 “do” が用いられていると容易に推測できるでしょう。すなわち、“have got” = “got” = “have” と表すことができます。さらに、COCA (Corpus of Contemporary American English) によれば、“what do you got?” という表現は1922例あることが示されています。とりわけ、The Movie Corpusによると、1930年代には40例ほどしか見られなかったものの漸増し、1980年代からは急増して2010年代には518例あることが見てとれます。また、この表現は1674例中1560例がアメリカとカナダで使用されていることが示されています。
Biber他(1999:216)は疑問文において、アメリカ英語では “Do pronoun have a/any” が会話表現で最も使用される一方で、イギリス英語では “have” を助動詞のように用いる “Have pronoun a/any” が文学や映画のフィクション作品で最も多く、“Have pronoun got a/any” は会話表現で最も多いことを指摘しています。要するに、“what do you got?” という表現は、“do” を用いた疑問文が好まれるアメリカ英語と、 “have got” = “got” = “have” の意味で用いられるイギリス英語の融合表現であり、アメリカ英語のイギリス英語化といえます。言語の保守性に関して、堀田(2016:153)は「アメリカ英語はイギリス英語に対してある部分では保守的であり, ある部分では革新的である」と主張しています。今後英語がどのような変化を遂げていくのか楽しみですね。
荒木一雄・宇賀治正朋(1984).『英語史 ⅢA』英語学体系第10巻, 大修館書店.
堀田隆一(2016).『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社.
Biber, D., Johansson, S., Leech, G., Conrad, S. & Finegan, E. (1999). Longman Grammar of Spoken and Written English. Longman.
Swan, M. (2016). Practical English Usage. (4th ed.). Oxford University Press.