“Loving Day” 異人種間の結婚

タイトル:“Loving Day” 異人種間の結婚
投稿者:藤倉なおこ(京都外国語大学)

娘が結婚したいという男性が、名門大学を卒業し、一流大学で准教授として教鞭をとり、イギリスで研究し、世界保健機構での仕事もこなして世界を舞台に活躍している医師だとしたら、両親はたいていの場合、きっと娘の選択に大喜びするでしょう。ところがこの映画の両親は戸惑いパニックに陥ります。なぜでしょうか?それは男性が黒人だったからです。一家は白人です。サンフランシスコの夜景が見渡せる家に、黒人女性のメイドを雇って暮らしています。母は華やかな画廊で働き、父はリベラル派のジャーナリストです。夫婦は娘が黒人の結婚相手を連れてきたことについて、このような会話を交わします。

Matt: Tell me something, did it ever occur to you that this might happen? (教えてくれ、こんなことが起きるなんて考えたことがあったかい?)
Christina: No. (いいえ)
Matt: Never occurred to me, either. Not once. Tell me your reaction. How do you feel? (ぼくだってそうさ。ただの一度も考えたことはなかった。どんな反応だよ?どう思っているんだ?)
Christina: I don’t know. I was shaken at first. I still am, I suppose.(わからない。最初は動揺したけど、、、まだしてるかもしれない。)<00:26:20>
『招かれざる客』(Guess Who’s Coming to Dinner, 1967)

アメリカで6月12日は「Loving Day」と呼ばれている記念日なのをご存知でしょうか。1967年のその日、米国の最高裁判所が異人種間の結婚を禁じる州法を違憲と判断しました。しかし、それまでは16の州で異人種間の結婚が法律で禁止されていたのです。これに異議を唱えたのが夫は白人、妻は黒人というラヴィング夫妻でした。当時、彼らが住んでいたヴァージニア州では、異人種間の結婚は認められていませんでした。そのため彼らはワシントンDCで結婚しますが、ヴァージニアに戻ると警察に逮捕されてしまったのです。夫婦はそれを不服として訴えます。夫妻が起こした裁判のおかげで、異人種間の結婚を禁止する州法はなくなりました。判決が出た日をラヴィング夫妻の名前をとって、Loving Dayと呼んでいます。なんとも幸せな響きがあります。

この映画は判決が出た1967年の作品です。人種の平等を求めてキング牧師が有名な演説「私には夢がある(I Have a Dream)」を25万人の聴衆の前で行ったのは、この4年前の1963年のことでした。黒人差別はまだ根強く残っていて、白人の家に黒人が招かれることはほとんどなかったと言えるでしょう。そもそも住む場所がはっきりと分かれている時代でした。映画の英語のタイトル “Guess Who’s Coming to Dinner”(いったい誰が夕食に来ると思う?)は、その意外性を表しています。一方で日本語のタイトルはずいぶんストレートです。映画では医師であるJohnの両親も、白人の婚約者Joannaを紹介されて驚きを隠せません。双方の父親は二人が経験する差別や苦労を挙げて結婚に絶対反対の立場を表明し、母親たちは子供たちの幸せを願います。

昨年2021年の米国の調査会社ギャロップの調査によると、1958年に異人種間の結婚に賛成する人はわずか4%でした。この映画が公開され、ラヴィング夫妻の最高裁判決の1年後でもその割合は20%にすぎません。しかし、2021年には賛成が94%に達しています。今年就任予定の米国史上初の黒人女性の最高裁判所判事、ケタンジ・ブラウン・ジャクソンの夫は白人です。ボストンの名門一族の出身で医師です。彼はLoving Dayにラヴィング夫妻のおかげで、自分たちも幸せな結婚生を送ることができていると感謝の気持ちをツイートしています。

映画で婚約者の男性Johnを演じるのは、黒人俳優として初めてアカデミー賞を受賞したシドニー・ポアチエです。最近でも黒人俳優がアカデミー賞を受賞するたびに彼に感謝の言葉を述べています。Joanneの母親役のキャサリン・ヘップバーンは、この映画で2度目のオスカー像を手にしています。父親役のスペンサー・トレーシーも2度のアカデミー賞に輝く名優です。多くの社会問題を描いたスタンレー・クレイマー監督は、豪華な俳優陣で当時の人種問題を広く世の中に訴えました。