人物名を使った比喩表現 -マーベル作品から-

タイトル:人物名を使った比喩表現 -マーベル作品から-
投稿者:飯田泰弘(岐阜大学)

私たちは誰かと会話をするとき、なるべく分かりやすく相手に情報を伝えようと努めます。その手段のひとつとなるのが、比喩です。比喩表現は、抽象的で分かりにくい物事を別のものに例えることで、より理解しやすくする表現技法です。今回は、世界中で大人気のマーベル作品の中から、人物名を使った興味深い比喩表現をご紹介します。
まずは、時間の長さの例えです。次のセリフを見て下さい。

Tony : Look, it’s been a really long day, like Eugene O’Neill long, so how’s about we skip to the part you’re useful.
(いいか、本当に大変な一日だったんだ。まるでユージン・オニール的な長さだ。だから要点だけ言ってくれ)<01:10:27>
『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』(Avengers: Age of Ultron, 2015)

ここでは、ユージン・グラッドストーン・オニールという、実在したノーベル文学賞受賞者を例えとして出しています。彼の波乱万丈の人生を引き合いに出すことで、「本当に大変なことがたくさんあった」ことを伝え、直前のa really long day(本当に長い一日)を効果的に強調しています。ユージン・オニールという人物を知らなければ、この表現の本当の意味や面白さは伝わってきませんね。
次は、有名人の特技や職業などを活用した例です。

Luis : Wow, that’s amazing. That’s like some David Copperfield shit.
(おぉ、たまげた。デイビッド・カッパーフィールド級の技だ)<01:11:20>
『アントマン』(Ant-Man, 2015)

ここでは、アントマンが特殊機能を使って一瞬で目の前から消えたので、Luisが「すごい技だ!」と驚いています。デイビッド・カッパーフィールドという、世界的マジシャンの名前を出すことで、彼のマジック級のすごさだと強調しています。この例でも、カッパーフィールドがマジシャンだと知らなければ、話者が本当に言いたいことは理解しにくくなります。
最後に、人物名の前に動詞のdoやgoが現れる比喩表現を見てみましょう。まずは、doの例です。

Tony : And he did a Banksy at the crime scene, just for us.
(そして奴は事件現場で、俺たちのためにバンクシーをしたんだな)<00:40:49>
『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』(Avengers: Age of Ultron, 2015)

これは、殺人現場の壁に、被害者の血で犯人からのメッセージが書かれていたことを知り、Tonyが発したセリフです。「壁に無造作に血文字が残されていたこと」や「犯人が誰かわからないこと」などから、素性不明の路上アーティストのバンクシーを引き合いに出して、「バンクシーのようなことをする」という表現になっています。
次はgoを使う例です。

Falcon : You better go get a bad cop because you’re gonna have to go Mark Fuhrman on my ass to get information out of me.
(あんたは悪い警官を演じたほうがいい。俺から情報を得るにはマーク・ファーマンごっこをする必要があるぜ)<01:13:58>
『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』(Captain America: Civil War, 2016)

これは、牢屋の中にいるFalconが、塀の外から情報を聞き出そうとしているTonyに対して述べるセリフです。マーク・ファーマンというのは、元ロサンゼルス市警の刑事で、O.J.シンプソン事件の関係者であり、黒人差別的な行動で多くの非難を受けた人物です。このような背景をもとに、頑なに情報提供を拒む(黒人の)Falconは「マーク・ファーマンを演じるくらい厳しくしないと、情報は吐かない」という気持ちを伝えていると考えられます。
ここまで見てきた比喩表現は、引用される人物の基本情報がないと、全体の意味の理解に苦しむことが分かっていただけたと思います。このほかにもマーベル作品には、いろんな興味深い比喩表現が登場します。ぜひ探してみて下さい。