flat adverb(単純形副詞)について

タイトル:「flat adverb(単純形副詞)について」
投稿者:松浦加寿子(中国学園大学)

ここ最近、大谷翔平選手の活躍が日本に明るい話題を提供してくれています。今、最も注目されているアスリート選手と言っても過言ではありません。大谷翔平選手の画像を検索していると、打席に立つ大谷選手の背後にあるバックネット下に書かれた交通標語、“Drive sober or get pulled over”(飲酒運転はするな、警察に捕まるぞ)が目に入りました。ここで着目すべき単語が“sober”です。通常、動詞を修飾するのは副詞ですが、ここでは“sober”が副詞として動詞“drive”を修飾しています。このように、形容詞と同形で-lyの形を伴わない副詞は、flat adverb(単純形副詞)と呼ばれています。この場合、文末の“over”と韻を踏ませたかったのは言うまでもありません。

Longman Grammar of Spoken and Written English(p.542)によると、flat adverbはアメリカ英語の口語表現であり、イギリス英語では稀と記載されています。動詞“drive”と関連して“drive slow”も定着している表現と言えます。A Communicative Grammar of English(p.237)には、“drive slow”と“drive slowly”が例として挙げられており、意味には違いはないが、前述同様flat adverbはより口語的であると説明されています。COCA (Corpus of Contemporary American English) において、“drive sober”は例が少ないものの見られる一方で、“drive slow”はあらゆるジャンルで広く使用されていることが見て取れます。

映画『僕のワンダフル・ライフ』(A Dog’s Purpose, 2017)では、主人公イーサンが農業学校に進学するため、家族や愛犬のベイリーと別れる場面で次のセリフが見られます。

Ethan: Keep that for me. Okay, Bailey?(持っててくれ)
Fran: Bye, Ethan!(またね)
Bill: Drive safe. (安全運転でな)<00:46:45>

ここも本来であれば“safely”ですが、副詞として“safe”が使用されている例です。COCAによれば、“drive safe”はテレビや映画をはじめ、広く普及していることが分かります。

また、かの有名なスティーブ・ジョブズもflat adverbを使用しています。次のスローガンは、1997年にスティーブ・ジョブズがアップル社に復帰した際に流れたCMの終盤で見られます。

Think different.
You Tube: Apple Think Different-Steve Jobs Narrated Version

CMではアップル社の製品は一切紹介されず、多くの偉人とメッセージ、そして終盤にアップルのロゴと上記のスローガンが流れるだけですが、非常に印象深いです。スティーブ・ジョブズが繰り広げたこの“Think different”キャンペーンは、大きな反響を呼び、瀕死状態だったアップル社の起死回生の原動力となりました。なぜスティーブ・ジョブズは “Think differently”ではなく、“Think different”を選択したのでしょうか。それはまさに「ものの見方を変える」発想であり、あえて文法を逸脱させることで現状を打開し、その後のアップル社の成功へと繋がっていったのではないでしょうか。COCAでは、“think different”という表現はスティーブ・ジョブズが使用するまであまり使用されていなかったことが見て取れますが、2000年代以降この表現が広く普及し、定着したことが示されています。

時代の流れに応じて言葉は変化していくものですが、私たちもスティーブ・ジョブズのように変化を恐れず、flat adverbの拡大を受け入れていきたいものです。

参考文献
Biber, D., Johansson, S., Leech, G., Conrad, S. & Finegan, E. (1999). Longman Grammar of
Spoken and Written English. London: Longman.
Leech, G. & Svartvik, J. (2002). A Communicative Grammar of English. London: Longman.