日本語の知識も大事になる英語の副詞や動詞

タイトル:日本語の知識も大事になる英語の副詞や動詞
投稿者:飯田泰弘(岐阜大学)

英単語の意味が分からなければ、その答えを求めて英和辞典をひくのは基本です。しかし言うまでもなく、正しい英語の理解にはきちんとした日本語の知識も不可欠です。

たとえば、『謎解きの英文法-副詞と数量詞-』(久野・高見 2015)には、辞書にあるからといって、narrowlyを「かろうじて、危うく、やっと」と訳すことの危険性が指摘されています。その理由は、これらの日本語の副詞は、共起する動詞が表す内容が主語にとって「望ましいこと」であると暗に述べてしまうからとされます。具体的には、「ジョンはかろうじて勝った」や「やっと勝った」とは言えても、「かろうじて負けた」や「やっと負けた」は少し不自然に聞こえます。一方、英語のnarrowlyは、望ましいかどうかへの言及はしない中立的な副詞なので、日本語では「僅差で」をあてるとよいと指摘されています。

freelyも要注意で、辞書の記載を注意深く見る必要があります。日本語で「私は将来英語を自由に話せる人になりたい」と言う場合、ふつうここでの「自由に」は「流ちょうに」の意味に相当します。よって英語でspeak English fluentlyとするのは大丈夫ですが、辞書に「自由に」の対訳があるからといってfreelyを安易に使うことは危険です。というのも、英語のfreelyは主に、規則や束縛や障害物などが無くて何かを「自由に」行う場合に使われるため、speak English freelyと言えば、英語が禁止されているのだろうかという誤解を招きかねません。実際に、 (1)や(2)のspeak freelyでは、いずれも立場の差がある人物同士の会話において「気をつかわず話す、腹を割って話す」という意味が出ています。

(1) Eichorst : Please, speak freely.(ほら、気をつかわず話してくれ)<00:27:55>
『ストレイン-沈黙のエクリプス-』(The Strain, Season 1, Episode 7, 2014)
(2) Vivian : Permission to speak freely?(意見してもいいですか?)
Jack : Permission granted.(許可する)<00:16:47>
『FBI-失踪者を追え!-』(Without A Trace, Season 1, Episode 4, 2002)

似たようなケースを、動詞でも確認しましょう。たとえばdrownの場合、多くの辞書には「溺れ死ぬ、溺死させる」と記されており、この英単語を「溺れる」とのみで覚えることの危険性が分かります。というのも、日本語の「溺れる」は、溺れたあとに助かったか、それとも命を落としたかまでは言及しないため、「ポチは川で溺れたが、九死に一生を得た」という日本語文は可能になります。つまり、日本語の「溺れる」だけでは、溺れた末の死をも含意するdrownの意味を正確に反映することができないのです。(3)や(4)のセリフで確認しても、(3)は溺れて死にかけている状態を表し、(4)では子どもたちが絶命したことが前提となります。

(3) Sarah : This is killing him. Alan. Alan! He’s drowning. <00:36:00>(彼を殺してしまうわ。アラン!アラン!彼は溺れてるのよ)
『HELIX -黒い遺伝子-』(Helix, Season 1, Episode 6, 2014)
(4) Peter : Do you know that she drowned her own kids? <00:33:26>(彼女は自分の子どもを溺死させたのを知ってるか?)
『シャッター・アイランド』(Shutter Island, 2010)

climbにも注意が必要です。この動詞の意味を「のぼる」と覚える学習者もいますが、辞書には「(苦労して・ゆっくり)降りる」という記載もきちんとあり、この動詞が表す移動はいつも上方向とは限りません。この事実は、一見すると相性が悪そうなdownが後続するclimb downという表現があることからも分かります。実際に(5)では、ロープをつたって下に降りるよう指示していることが、映画のシーンを見れば一目瞭然です。

(5) Spider-Man : Listen. I need you to climb down. <01:43:10> (聞くんだ。君はロープを降りろ)
『スパイダーマン』(Spider-Man, 2002)

このように、辞書にある日本語の対訳が必ずしも英単語の正確な意味を表しきれないケースや、日本語の正確な理解が求められるケースは多々あります。英語学習の際には、日本語が持つ特性も意識しながら、辞書にある細かな注意書きにもきちんと目を配ることが大事です。