To victoryは経路句なのか結果句なのか

タイトル:To victoryは経路句なのか結果句なのか
投稿者:吉川裕介(京都外国語大学)

皆さんの中には、2020年11月上旬に行われたアメリカ大統領選挙に注目されていた方も多いのではないでしょうか。今回は選挙でよく目にするto victoryという表現について考えを深めていきたいと思います。(1)の文は選挙戦を左右するヴァージニア州で勝利したことで、民主党のバイデン候補が大統領戦で優位になった記事の見出しです。

(1) Joe Biden marches to victory in Virginia, notching swing-state win
(New York Post–Nov. 3. 2020)

この場合、to victoryは動詞marchの比喩的な目的地として表されており、「大統領選挙での勝利へ動き出した」という意味で捉えられます。他にもinch to victory(少しずつ勝利に近づく)や、surge to victory(勝利に大きく近づく)といった動詞も今回の大統領選ではよく目にしました。このように、to victoryは動詞が示す様態を伴って、ゴールに到達する内容を表すことから、競技や選挙などの話題で頻繁に使用されることが伺えます。

(2) Biden inches closer to victory (NHK WORLD-JAPAN–Nov. 7. 2020)

(3) Former Vice President Joe Biden surged to victory in Super Tuesday contests across the South and beyond, while Sen. Bernie Sanders, I-Vt., claimed gold with a sizable win in delegate-prize California. (FOX NEWS–Mar. 4. 2020)

よく観察してみると、(4)のような通常の移動構文では場所を示す前置詞句は物理的なゴールとしてto句が示され、動作主の位置変化(change of location)を表しています。このような前置詞句のことを経路句と言います。一方で、to victoryは抽象的なゴールを示しており、その解釈に状態変化(change of state)を伴います。例えば、大統領選挙の場合to victoryは場所への移動ではなく、「候補者」から「大統領」へと立場が変わることを意味しています。このような前置詞句は結果句と呼ばれます。

(4) John pushed the shopping cart to the garage.

Iwata (2020)は、このto victoryをめぐって、これまでの結果構文とは異なる振る舞いをする新種の結果構文(原因と結果を単文で描写する構文)であると主張しています。通常、結果構文は(5a)のように直接目的語の制約(Direct Object Restriction; 以下DOR)に従い、結果述語として示される二次述語(clean)は直接目的語(the table)の状態変化を示す必要があります(cf. Simpson 1983, Levin & Rappaport Hovav 1995)。一方、(5b)では鉄を溶かした結果、自身の体が熱くなったという意味で解釈することができません。

(5) a. John wiped the table clean.
b. *I melted the steel hot. (Simpson 1983; 143-144)

興味深いことに、to victoryを見てみると、(6a)ではThe influence of the media causes the victory of Trump.とパラスレーズできるように、to victory はTrumpの結果状態を表している一方で、(6b)に見られるto victoryは「騎手が同じ馬に騎乗し、勝利を収めた」というように主語のPhilippe Rozier氏の結果状態を表していることが分かります。

(6) a. How The Media Swept Trump To Victory (HUFFPOST Nov. 18. 2016)
b. PHILIPPE ROZIER…rode the same horse to victory for France in the Euro House Trophy in Gothenberg yesterday. (BNC, cf. Iwata 2020; 394)

このような二次述語に関する指向性の不一致について、Iwata (2020)では次のように説明しています。(6a)では、sweepが示す行為が目的語のTrumpに働いておりDORを満たすことから通常の結果構文として解釈されます。一方、(6b)のride to victoryのパターンは、目的語が「動詞に本来選択される働きかけの直接の受け手(force recipient)」として捉えられないことから、動詞の働きかける対象がそもそも存在しないために、DORの違反にはならないと結論づけています。
このことから、Iwata (2020)の分析には、ride to victory型を他動性が欠如した結果構文として分類している点で新規性があります。日常的に目にする表現の奥にはこのような目新しい理論的進歩が潜んでいます。ぜひ、言葉の奥深さを感じてもらえれば幸いです。

参考文献:
Levin, B., & Rappaport Hovav, M. 1995. Unaccusativity: At the syntax-lexical semantics interface. Cambridge, M.A: MIT Press.
Simpson, J. 1983. Resultatives. In M. Rappaport, A. Zaenen, & L. Levin (Eds.) Papers in lexical-functional grammar (pp. 143-157). Bloomington: Indiana University Linguistics Club.
Iwata, S. 2020. English Resultatives: A force-recipient account. Amsterdam & Philadelphia: John Benjamins.