ドラマ『シャーロック』の魅力とは?

タイトル:ドラマ『シャーロック』の魅力とは?
投稿者:松浦加寿子(中国学園大学)

現代で「シャーロック」と言えば、世界で一番有名な探偵と言っても過言ではありません。シャーロックの作品はこれまでに何度もドラマ化や映画化されています。日本でも、2018年4月に『ミス・シャーロック』や、2019年10月には『シャーロック』がフジテレビジョンの制作で放送され、絶大な人気を誇っています。

その中でも高い人気を博したのが、英BBCが製作し、2010年から2017年まで放映されたドラマ『シャーロック』(Sherlock)です。シャーロックは、作品の中で頭脳明晰で鋭い観察眼を持ちながら社会性を著しく欠いており、さらに高機能ソシオパスとして描かれています。そのような彼が相棒のジョンとどのように信頼関係を構築していくことができたのか、さらに私たちがシャーロックに魅了されるのはなぜなのか、言語学者のブラウン&レヴィンソンが提唱した人間関係を円滑にするための言語手段であるポライトネス理論の観点から考察したいと思います。ここでは、『シャーロック』(Sherlock, Season 1, Episode 1)の「ピンク色の研究」を取り上げます。

まず下は、初対面の場面で、シャーロックがジョンに関する情報を彼の外見から推測する場面です。

Sherlock: I know you’re an army doctor and you’ve been invalided home from Afghanistan. I know you’ve got a brother with a bit of money who’s worried about you, but you won’t go to him for help because you don’t approve of him – possibly because he’s an alcoholic, more likely because he recently walked out on his wife. And I know that your therapist thinks your limp is psychosomatic – quite correctly, I’m afraid. (君は軍医で負傷して帰国。兄がいるが助けを求めない。彼の飲酒癖のせいかな。兄は最近妻と別れた。セラピストいわく、君の足は心因性。)<00:11:20>

ここでシャーロックはジョンの外見から、陸軍の軍医で負傷しアフガニスタンから送還されたことや、ジョンの兄の飲酒癖が悪いこと、さらにジョンのセラピストはジョンが脚を引きずるのは心因性であると判断し、それらが見事に当たっていることが後に分かります。ポライトネス理論では、相手と距離を縮めたいときに用いるストラテジーとして、他者から好かれたい、認められたい欲求がベースにあるポジティブ・ポライトネスを15個挙げています。太字の部分は、「相手(の興味、欲求、必要、物)に気づき、関心を向ける」に該当し、シャーロックがジョンに関心を示していることがうかがえます。

次は、なぜ言い当てられたかの根拠をシャーロックから聞いたのち、その鋭い考察にジョンが感心している場面です。

John: That was … amazing.(すばらしい推理だった。)
Sherlock: Do you think so?(そう?)
John: Well, of course it was. It was extraordinary. Quite extraordinary.(まったく見事だったよ。)<00:20:25>

ここで太字の3文目の褒めの箇所は2文目をさらに強めて言っていると考えられますが、シャーロックの考察に対してジョンが賛意を3回も述べて大袈裟であること、またこのストラテジーはイントネーションやストレスからも判断できるとブラウン&レヴィンソンが述べていることから映画の音声からも判断して太字の部分はすべて「(相手への興味、賛意、同情を)誇張する」のストラテジーに該当すると考えられます。前例は相手の何かに気付いて発言するのに対して、この例では相手の発言に対して賛意を述べることで相手とより一体感を生み出しているように思います。

これらの場面でシャーロックとジョンは初対面にもかかわらず、お互いに打ち解けたい時に用いるポジティブ・ポライトネスを使用しています。高機能ソシオパスで社会性を著しく欠いており、一見コミュニケーション能力が低そうに思えるシャーロックが序盤から上手に人間関係を構築していることが明らかです。それがまさしく視聴者をも虜にするシャーロックの魅力ではないでしょうか。