口語英語に見られる破格構文

投稿者:井村誠(大阪工業大学)
タイトル:口語英語に見られる破格構文

次は映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(Star Wars: The Rise of Skywalker, 2019)の主役を演じたデイジー・リドリー(Daisy Ridley)が、記者会見で出演の感想を述べたものです。

Going into it I could never have imagined what this would have been, and it feels really momentous to be part of this. It’s also a strange thing to divide “Star Wars” from our lives over the past six years cos it’s such a big chunk of anyone’s lives. But I think working in a place where you feel really good and really safe to make mistakes, try again … that you feel good, that you can laugh, that you can cry, it’s really wonderful, and I’m really, really glad that I’ve had that experience with all these people in this amazing legacy.
(初めの頃は、どんなものになるのか想像もできませんでした。今では、この作品に参加したことは本当に重大なことだと感じています。それに、この6年間の私たちの人生を、『スター・ウォーズ』と切り離して考えることなどできません。誰の人生にとっても、ものすごく大きな部分を占めているからです。(撮影現場は)本当に心地よくて、安心して失敗できたり、やり直したりすることができて…気分が良くて、笑えるし泣ける、そんな場所で働けるのは、とてもすばらしいことです。このすばらしい伝統作品で、ここにいる皆さんと一緒にそんな経験ができて、本当に、本当にうれしいです。)
(NHKラジオ「ニュースで英語術」2020年1月10日放送分)

この発話(英文)のうち下線部は破格構文(anacoluthon)と呼ばれるもので、文法的には誤りとされますが、口語英語では一般的に見られる現象です。先ず、I think以下の主部(working in a place where…)を直接受ける述部がなく文が完結しないまま、途中でこれまでに述べたことをまとめてitで受け、it’s really wonderfulと収束させています。次に、途中から現れる3つのthat節も撮影現場の雰囲気を意識の流れに任せて言い連ねただけのもので、構文上の統語的機能を特定することができません。I thinkの目的節ではないでしょうし、placeを修飾する同格節とするのも無理があります(thatではなく関係副詞whereなら結束性が保てますが)。あるいはmake mistakes, try againの結果節と考えることはできなくもないですが、やはり並列的に心に思い浮かんだことを述べていると考える方が自然でしょう。

このように非文法とされる破格構文を正規の教育の中でお手本とすることはあまり考えられませんが、ただ一方で文法的正確さにがんじがらめになっている日本の英語教育が、学習者の発話産出の大きな障害になっていることも事実です。そもそも文は書き言葉の単位であり、「破格構文」という用語を口語英語に当てはめること自体に無理があるとも言えます。Quirk et al. (1985)では発話を構成する単位として音調単位(tone unit)という概念を提唱していますが、書き言葉の論理とは別に、単に「非文法」や「破格」では片づけられない話し言葉の論理というものが存在すると思います。

Filmore (1979) は、発話の流暢性(fluency)について以下の4要件を挙げています。

(1) The ability to talk at length with a minimum of pauses.
(2) The ability to package the message easily into “semantically dense” sentences without recourse to lots of filler material.
(3) The ability to speak appropriately in different kinds of social contexts and situations, meeting the special communicative demands each may have.
(4) The ability to use language creatively and imaginatively by expressing ideas in new ways, to use humor, to make puns, to use metaphors, and so on

つまり流暢さとは、一定の長さの意味のある発話を、淀みなく、状況に応じた適切な形で、創造的に行えることであるというわけです。口語英語に見られる破格構文は、意識の流れに任せて自由に一定の長さの発話をするための一種の方略と考えられないでしょうか。こうしたことはあえて真似をして学習するようなものではないかも知れませんが、多くの生きた英語に触れ、また実際に英語を使う中で自然に理解できるようになるものだと思います。外国語としての英語をマスターする上では最後の試練とも言える「ネィティブの壁」の1つかも知れません。

Filmore, C. (1979). On Fluency. In C. Fillmore, D. Kempler., & W.S. Wang, (2014). Individual Differences in Language Ability and Language Behavior. pp.85-101, Saint Louis: Elsevier Science.
Quirk,R., S. Greenbaum, G. Leech and J. Svartvic. (1985). A Comprehensive Grammar of the English Language. London and New York: Longman.