助動詞 “may” から見えるアンの魅力(『ローマの休日』(Roman Holiday, 1953))

濱上桂菜(獨協大学)

2022年5月13日、『ローマの休日』の新しい吹替版がテレビで放送されました。映像と効果音・音楽はそのままで、次世代の声優たちが登場人物に新たな声を吹き込みました。以前の吹替版に馴染みのある方にとっては違和感があったかもしれません。しかし、新しい吹替版では、多くの人にとって聞き覚えのある声優さんが一人は見つかったかと思います。白黒映画を見たことがない人であっても、親しみを持って見ることができたのではないでしょうか。

この映画で英語の勉強になるのは、助動詞のmayです。mayの意味の一つとして、「許可」を思い出す人も多いでしょう。主人公の王女アンは次のように言っています。(以下例文の日本語訳は5月13日放送の吹き替え版です。)

・You may sit down.「さぁ お掛けになって。」

・You may call me Anya.「では こう呼んでください。アーニャと。」

これらの文中のmayは「許可」を意味します。しかも主語がyouですから、聞き手に対して許可を与えています。

ただし、このようにmayを使って聞き手に許可を与えるのは、今風に言うと上から目線の言い方です。封建制度下のような身分の違いが明らかな社会では用いられていましたが、現在社会では使われていません。たとえ1953年に制作された『ローマの休日』の頃であっても同様に、ずいぶん高圧的な上から目線の言い方です。確かにアンは王女ですから「許可」のmayを使う立場ではあります。しかし、しがない記者のアパートに押し込んで眠りこけていたパジャマ姿の来客が言うのですから、滑稽ですね。

聞き手に許可を与えるmayの使用は今日廃れましたが、聞き手に許可を求めるmayは今日も使われます。

・May I have some?「私にもください。」

上の文は、ジョーがお酒を飲んだときに、王女アンの言葉です。アンがお酒を貰う許可を求めているのです。このmayの使い方は一般的ですから、mayで笑うところではありません。(ただし、フラフラの状態でもなおアルコールを飲もうとするアンの姿に笑うところではあります。)

このように同じ「許可」を意味するmayであっても、You may …(聞き手に許可を与える表現)は高圧的すぎて今日使われませんが、May I … ?(聞き手に許可を求める表現)は今も使うことができます。

身分を隠してたった1日の「休日」を楽しむ王女アン。最初はmayを使うなどして王女らしさを隠せずにいるので滑稽です。いかにも王女らしいこのようなセリフは、この映画では重要な役割を果たしていると思いませんか? 最初に王女らしさが目に付くぶん、徐々に現れてくる少女としての自然体のアンに私達は強く惹かれていくように思うのです。